携帯工具の選び方|やったことがなくても、メカトラに備える意味がある
携帯工具は、作業をやったことがない、自分ではできない、だから持たなくていい——という装備ではありません。
家に消火器を置いている人の多くは、実際の火災で使った経験があるわけではないでしょう。山へ入るときのクマスプレーも同じです。できれば一度も使わずに済む方がいい。それでも備えるのは、起きてほしくないことが起きたとき、何もできない状態を避けるためです。スポーツバイクの携帯工具も、これとよく似ています。
チェーンを切ったことがなくても、チューブレス修理をしたことがなくても構いません。工具や補修用品が手元にあれば、トラブルに対して取れる選択肢が残ります。
携帯工具は、無事に帰るための選択肢を持ち歩く道具です。
ロードバイクやMTB、クロスバイク、e-bikeなどのスポーツバイクで携帯工具を選ぶとき、私は「20機能・○g・○円」といった数字だけを並べる比較は、かなり雑だと思っています。大事なのは、その機能が愛車で本当に使えるか。ボルトへ届くか、しっかり握れるか、必要な力を掛けられるかです。
この記事では、私が使ってきた工具の経験をもとに、必要な機能と作業性から選ぶポイントを紹介します。一つにまとめるだけでなく、役割を分けて組み合わせる。その考え方も含めて、出先での備えを整理していきます。
迷ったら、まずはこの3ステップで考えよう
目次
携帯工具の目的は、完璧な整備ではなく「帰ること」
自宅やショップで行う整備と、ライド中の応急処置では目的が違います。出先で目指すのは、すべてを完璧な状態まで整備し直すことではありません。
ズレたパーツを締め直す。切れたチェーンをつなぐ。タイヤの穴を塞ぐ。軽微に曲がったローターの擦りを減らす。「走れない」状態から、「安全に走って帰れる」状態へ戻すこと。それが携帯工具の役割です。
また、出先では自転車専用品だけですべて解決できるとは限りません。その場にある工具や材料を、本来とは違う用途へ応用することもあります。専用品を揃えるだけでなく、手持ちのものをどう使えるか考えておくことも、トラブルから復帰するための力になります。
ただし、応急処置は安全に走れる状態へ戻せる範囲で行います。ブレーキが正常に作動しない、フレームやフォークに重大な損傷があるなど、安全性を確認できない場合は無理に走らないでください。本格的な点検や修理は帰宅後やショップであらためて行いましょう。
自分でできなくても、工具があれば誰かの知識を借りられる
携帯工具というと、「自分で修理できる人が持つもの」と考えてしまいがちです。でも実際のライドでは、必ずしも一人ですべてを解決しなければならないわけではありません。
グループライドならチェーン修理に慣れている仲間がいるかもしれません。イベントなら、近くを走っている経験者が声を掛けてくれることもあります。
そんなとき、適合するクイックリンクやチェーンツール、タイヤプラグなどが手元にあれば、自分にはなかった知識や経験を借りて復帰できる可能性が生まれます。反対に、道具が何もなければ、方法を知っている人がいてもできることは限られます。
「何が起きたら帰れなくなるか」から必要な備えを考える
携帯工具を考えるときは、「何機能付いているか」より先に、「これが起きたら、どうやって帰る?」と具体的なトラブルをイメージしてみます。
| 起こり得るトラブル | そのままだと | 備えておきたいもの |
|---|---|---|
| パンク・タイヤ損傷 | 空気を保持できず走行継続が難しい | 予備チューブ/DART・プラグ/タイヤレバー/パッチ/タイヤブートなど |
| 修理後の空気補充 | 穴を塞いでも走り出せない | 携帯ポンプ/CO₂/電動ポンプ |
| ボルトの緩み・パーツのズレ | 正常な姿勢や状態で走りにくい | 対応するHEX(六角レンチ)/Torx |
| チェーン切れ | ペダルを回しても駆動力を車輪へ伝えられない | チェーンツール+適合クイックリンク |
| バルブのトラブル | 空気を保持・補充できないことがある | バルブコアツール/適合する予備コア |
| スポーク切れ・大きめのホイールの振れ | 切れたスポークの巻き込みやタイヤの干渉につながる | テープなどの固定用品/対応するスポークレンチ |
| ローターの軽微な曲がり | パッドへ強く擦り、車輪が回りにくくなることがある | ローター修正工具 |
この3つを考えると、自分に必要な備えが見えやすくなります。
愛車で「届く・差し込める・回せる」を確認する
必要な工具を考えるとき、まず確認したいのは自分の自転車です。ステム、ハンドル、シートポスト、サドル、ブレーキ、変速機、スルーアクスルなどに、どんなサイズ・規格の工具が必要なのか確認します。
ただし、サイズが合っているだけでは十分ではありません。以下の「届きやすさ」は、今回私が工具を当てて確認した範囲での比較です。車体やボルト位置、使うビットによって結果は変わります。
サイズが合っていても、届かないことはある
最近のロードバイクなどでは、シートポスト固定ボルトなどがフレームの奥まった位置に配置されていることがあります。必要な工具が5mm HEXだと分かっていても、ビットや軸が短ければ、ボルトへ十分差し込む前に工具本体がフレームへ当たってしまいます。
つまり、スペック上は「5mm対応」でも、実際には回せないことがあるわけです。
Trek Comp マルチツールは価格がリーズナブルで、重量は135g。基本工具をまとめたタイプとしてはやや重めですが、軸にある程度の長さがあり、奥まった位置のボルトまで届きやすいのが長所です。
Wolf Tooth 6-Bitは、キーリング込みで62g、本体は53g。可動式ヘッドによって、ボルトへ差し込んだあとにハンドル側の角度を変えながら回しやすいのが特徴です。ただし、首が振れることと、深い位置まで届くことは別。今回の比較でも、軸に長さのあるTrek Compの方が届きやすい場面がありました。
equipt Sardineは38g。3・4・5・6mmの六角レンチとT25という、よく使う5種類へ絞ったシンプルな工具です。軽さと握りやすさを重視する一方、愛車に2mmや2.5mm、8mmなどが必要なら、別の工具で補うか、別に選択肢を検討します。
Daysaver Essential8は33gと超軽量。L字レンチに近い形状で力を掛けやすい一方、短い側を差し込む使い方では、深く奥まったボルトへ届く前に工具本体が周囲に干渉する場合があります。今回私が試した箇所と差し込み方では、奥まった場所へのアクセスは最も苦手でした。なお、ビットは長い側にも付け替えられるため、差し込む向きとハンドルを回せる余地まで含めて確認したい工具です。
携帯工具を購入したら、ステム、サドル、シートポスト、クリート、スルーアクスルなどへ、一度実際に工具を当てて確認しておくのがおすすめです。確認したいのは、先端が十分な深さまで入るか、工具本体が当たらないか、回すための余地があるかの3点です。実際に締め直す場合は、パーツの指定トルクも守りましょう。
タイヤ別のパンク対策と「直らなかった次」への備え
パンク対策は、使っているタイヤシステムによって変わります。ただし、どちらの場合も「穴を直す道具」だけ持っていれば十分というわけではありません。
必要なタイヤの脱着と、修理後の空気補充まで含めて、一つのセットとして考えます。
チューブなら「交換する・補修する・空気を入れる」
チューブを使っているなら、予備チューブ、タイヤレバー、空気を入れる手段が基本です。
タイヤの着脱は、リムとタイヤの組み合わせや作業への慣れによって難しさが大きく変わります。特にきつい組み合わせでは、マルチツールに付属する簡易的なレバーより、Crankbrothers Slider Tire Lever Kitのような専用品を持つ方が安心だと私は考えています。このキットはレバー2本に加え、取り付け時にはめたビードが戻らないよう押さえるスライダーを備えています。「専用品だから」だけでなく、作業を助ける形と仕組みに注目したいところです。
Park Tool GP-2C スーパーパッチなど、チューブの素材に適合するパッチがあれば、予備チューブまでパンクしてしまった場合の次の手になります。
一方、Park Tool TB-2 タイヤブートは、タイヤ自体の裂けた部分を内側から補強し、チューブが傷口からはみ出すのを防ぐためのものです。チューブの穴を塞ぐパッチと、タイヤを補強するブートは別の役割。どちらも薄く携帯しやすいので、予備チューブと一緒に備えておきたい用品です。
製品の用途・仕様:Crankbrothers公式/Park Tool GP-2C/TB-2。TB-2はチューブと組み合わせる応急補強材で、単独でチューブレスの気密を回復させるものではありません。
チューブレスなら「シーラントの次」を考える
私自身、Stan’sのシーラントでチューブレスを使うようになってからは、予備チューブを持たなくなりました。代わりにStan's DART Toolを携帯しています。
小さな穴ならシーラント。それで止まらなければDARTをブッ刺す。サイドカットなど、プラグでは対処しにくい損傷なら外側からの応急補修も試みる。私はそうやって、極力タイヤを外さない方法を選んでいます。損傷の場所や大きさによっては直せない場合もありますが、予備チューブを持っていけば、必要に応じてタイヤブートで補強してチューブを入れるという対処法も残せます。
DARTは、ラテックスをベースにしたシーラントとの反応を利用する修理用品です。どのシーラントでも同じように使えるわけではないため、組み合わせを確認して選びます。本体には仏式バルブコアを着脱する機能もあり、コアを外してシーラントを補充する際にも使えます。
最初の方法で直らなかったら、その次はどうするか。チューブレスでは特に、この「次の一手」まで考えておくことが重要です。
仕様・シーラントとの適合:Stan’s公式 DARTサポート。予備チューブを持たないのは私自身の運用であり、チューブレスなら誰でも不要という意味ではありません。
修理できても、空気を入れられなければ帰れない
穴を塞いだりチューブを交換したりしても、タイヤへ空気を戻せなければ走り出せません。
私も以前、パンクしてチューブを交換したあとに、サドルバッグへ入れていたCO₂カートリッジがすべて使用済みだったことに気づいたことがあります。幸い、数km先のコンビニで空気入れをお借りできたため、事なきを得ました。
Trek Air Rush 電動ポンプ、携帯ポンプ、CO₂など、愛車のバルブと必要な空気圧に対応する方法を用意します。近所を1〜2時間走る日でも、パンク修理用品と空気を入れる手段はセット。出発前には、CO₂の未使用カートリッジや電動ポンプの充電も確認しておきましょう。
また、鋭利な砂利が多い路面など、何度もカットパンクする可能性がある過酷な場所へ行くなら、電動ポンプだけに頼らず、手動ポンプやCO₂など、別方式のバックアップを持つのも有効です。
チェーン切れに備える、工具とクイックリンク
フロントシングル化や、チェーンの暴れを抑えるリアディレイラーの普及で、私の実感としては、以前よりチェーン落ちや巻き込みに悩まされる場面がかなり減りました。ただし、チェーンが切れたり、リンクが曲がったりするトラブルまでなくなったわけではありません。
一度チェーンが切れたり大きく傷んだりすると、自走で帰ることが難しくなります。しっかり備えておきたいなら、適合するクイックリンクと、チェーンカッター・クイックリンクプライヤーの2種類のチェーンツールをセットで持っておきたいところです。
チェーンは単純に一か所が外れるだけとは限りません。変速トラブルや転倒などでリンクが曲がったり捻れたりした場合には、傷んだ部分を取り除いてからつなぎ直す必要があります。そのためにチェーンカッターが必要になります。
傷んだ部分を取り除き、つなぎ直せる状態まで持っていけるように備える。
さらに備えるなら、予備チェーンのコマという選択肢も
損傷する範囲が小さければ、傷んだ部分を取り除いてクイックリンクでつなぎ直せる場合があります。ただし、チェーンが短くなると、大きなスプロケット側などでリアディレイラーを引っ張りすぎるおそれがあります。元のチェーン長で使えていたギアが、そのまま使えるとは限りません。
さらに大きな損傷まで考えるなら、使用チェーンに適合する数リンク分の予備チェーン片と、クイックリンク2セットを携帯する方法もあります。クイックリンクで接続できるよう両端をインナーリンクにしておけば、傷んだ部分を取り除いたあと、予備チェーン片を挟んで両側をつなぐ選択肢が残ります。
LEZYNE Multi Chain Pliersなら、チェーンツール2種とクイックリンク2セットをまとめて持てる
LEZYNE Multi Chain Pliersには、チェーンカッターとクイックリンクプライヤーに加え、予備クイックリンクを2セットまで保持するマグネット式の収納があります。クイックリンク自体は別途用意します。
普段ならクイックリンク1セットでも十分かもしれません。ただ、予備チェーン片まで携帯するようなライドでは、2セット持てることが一段先のチェーントラブルまで考えた備えにもなります。
さらにバルブコアツールやローター修正機能も備えているため、基本のレンチとは役割を分けながら、走行不能につながりやすいトラブルへの対応を追加できます。
もちろん、チェーンツール、クイックリンク、予備チェーン片は、使用しているチェーンへの適合を確認して用意しましょう。「同じ12速」だけでは互換性を判断できません。たとえばSRAMの従来型Eagle、T-Type、ロード用Flattopでは、対応するPowerLockが異なります。
適合確認:LEZYNE国内公式では、Multi Chain Pliersは8〜12速対応、SRAMフラットトップ非対応と案内されています。フラットトップを使う場合は対応工具へ置き換えてください。クイックリンクの規格・再使用可否は、使用チェーンのメーカー指定を確認します。
ローター修正も「帰るため」の応急処置
転倒や岩、枝との接触などで、ディスクブレーキのローターが軽く曲がることがあります。曲がった部分がパッドへ強く擦って車輪が回りにくくなった場合には、ローター修正工具で擦りを減らせることがあります。
ただし、擦れの原因が必ずローターの曲がりとは限りません。原因を確かめずに曲げるのではなく、ローターの状態とブレーキの作動を確認することが先です。亀裂や大きな変形、キャリパーやホースの損傷、制動そのものの異常がある場合は走行を続けないでください。
参考:Park Tool「Disc Brake Rotor Truing」。軽微な振れの修正と、損傷したローターをそのまま使い続けることは別です。
スポーツバイクの携帯工具を比較。機能数より使い勝手・作業性
「20機能入り」であっても、軸が短くてボルトへ届かない、小さすぎて力を込められずボルトを回せない、おまけのタイヤレバーでタイヤが外せない。これでは、いざというときに役立ちません。
どれも実際にあった話です。
私が8-Bit Kit Twoを気に入っている理由も「多機能だから」ではない
私はWolf Tooth 8-Bit Kit Twoを3年以上、お守りのように携帯しています。幸い、出先で使ったのはレバー位置の調整程度で、すべての修理機能を実際のトラブルで使ったわけではありません。それでも気に入っているのは、手に取って扱ったときの工具としての使いやすさです。
8-Bit Kit Twoは3つの独立した携帯工具で構成され、それらをマグネットでひとまとまりにして持ち運べます。そして実際に使うときには、それぞれを分離できます。
一つひとつの工具が、超小型マルチツールよりも普段使う整備工具に近いサイズ感なので、しっかり握れて、必要な力を掛けやすい。
私が8-Bit Kit Twoを気に入っているのは、このバランスです。
この記事で紹介している主な工具を、機能数と重量も含めて並べてみます。
| 工具 | 機能の目安・重量 | 使い勝手の特徴 |
|---|---|---|
| Wolf Tooth 8-Bit Kit Two | 26項目※ 171g(3点セット) |
基本レンチに加えて、チェーン・タイヤ・ローターなど出先で起こり得る幅広いトラブルへ対応。分離して握れる構造が特徴。 |
| Trek Comp マルチツール | 10機能 135g |
シンプルでリーズナブル。軸に長さがあり、奥まったボルトにも届きやすいのが最大の特徴。初めての携帯工具としてお店でも大人気。 |
| equipt Sardine | 5機能 38g |
六角3・4・5・6mmとT25に絞った構成。必要なサイズが揃う人には軽量な選択肢。ホルダーによる車体装着も可能。 |
| Wolf Tooth 6-Bit | 11機能 53g/キーリング込み62g |
様々なタイプのボルトに対応できる機能が軽量・コンパクトにまとまっているのが最大の特徴。可動式ヘッドによって角度を変えながら使いやすい。 |
| Daysaver Essential8 | 8機能 33g(ビット込み) |
軽量なL字レンチ型。ビットは長短両側へ付け替え可能。差し込み方向と周囲への干渉を確認したい。専用ホルダーによる車体装着も可能。 |
| LEZYNE Multi Chain Pliers | チェーンツール2種+ バルブ・ローター機能 61g(国内公式値) |
チェーンカッターとクイックリンクプライヤーを一つにまとめ、予備クイックリンクも2セット収納可能。さらにローター修正やバルブコアにも対応する。 |
※機能数の基準はブランドごとに異なります。8-Bit Kit Twoの26項目は、収納や重複する工具サイズを含めた本記事の延べ集計(17+3+6)で、メーカー公称の独立した機能数ではありません。
重量は実測ではなく、メーカー・国内取扱情報の公表値です。6-Bitは本体53g/キーリング込み62g、8-Bit Kit Twoは3点合計171g、Essential8はビット込み33g。LEZYNEは国内公式の61gを採用しています。収納するクイックリンクや車体取り付け用ホルダーなども含めた携行重量は、一式で量ると確実です。
数字は比較の参考にはなります。ただし、基本工具のみをまとめたマルチツールと、チェーンやローターなど特定の作業を担う専用工具をまとめたマルチツールでは、そもそもの役割が違います。
先端が届くか、しっかり握れるか、必要な力を掛けられるか。携帯工具は、必要な機能が揃っているかだけでなく、実際の作業性まで見て選びましょう。
基本工具を核に、足りない役割を楽しみ方に合わせて足していく
初心者の方は、まず愛車で使える基本工具と、タイヤに合ったパンク修理用品、空気入れを揃えるところから始めましょう。すでにTrek Comp マルチツールなどを持っていて問題なく使えるなら、それを生かして足りない道具を追加していけば十分です。
大切なのは、もっと高機能なマルチツールへ買い替えることではなく、今の工具では対応できないトラブルに何を足すかです。
ゼロから組むなら、軽量な6-Bitを基本工具の核に
一方で、もし今の私が何も持っていない状態からレスキューセットを作り直すなら、基本工具にはWolf Tooth 6-Bitを選びます。
理由は、キーリング込みでも62gに収まり、必要な六角レンチやT10・T25をコンパクトに持てること。可動式ヘッドで回し方を変えやすく、チェーンやタイヤの作業はそれぞれの専用品へ任せる構成の核にしやすいからです。
ただし、前の比較で触れたように、奥まったボルトではTrek Compの長さが有利な場面もあります。軽量化のために、愛車で必要な作業ができなくなっては本末転倒です。
役割を分けて考えるとシンプルです。
ボルトを回す
愛車で実際に使えるサイズのヘックス・トルクスなどの基本工具。
タイヤを外す
ちゃんとタイヤを外しやすい専用タイヤレバー。
パンクを直す
タイヤシステムに合った補修用品。
空気を入れる
携帯ポンプ、CO₂、電動ポンプなど。
チェーンを切る・つなぐ
マスターリンクプライヤー、クイックリンク、チェーンカッター。
一つの小さなボディへ全部を押し込むのではなく、それぞれの作業が得意な工具へ役割を分ける。この考え方なら、最初に買ったシンプルなマルチツールも無駄になりません。
距離より「助けの呼びにくさ」で考える
持っていくものは、単純な走行距離だけでは決まりません。100km走っても市街地中心なら、自転車店や電車、家族の迎えなどの助けを得やすい。一方で30kmでも、山深い林道なら自力で復帰できる範囲を広げておく意味は大きくなります。
距離そのものより、「そこでトラブルが起きたとき、どれだけ助けを得にくいか、押して帰ることがどれだけ現実的でないか」。そこを基準に備えを厚くしていきます。
楽しみ方に応じて、必要な備えを足していく
以下は、チューブレスを使う私が考える構成例です。チューブ仕様の場合はDARTの部分を予備チューブと適合するチューブ用パッチへ置き換えます。タイヤブートは、タイヤ自体の損傷への備えとして追加するものです。
| 現場でやりたいこと | 担当する工具・補修用品 | ベーシック | ロング | 林道・ トレイル |
|---|---|---|---|---|
| ボルトを締める・緩める |
Wolf Tooth 6-Bit または手持ちのTrek Comp マルチツールなど |
● | ● | ● |
| タイヤを外す・戻す | Crankbrothers Slider Tire Lever Kit | ● | ● | ● |
| チューブレスパンク修理 | Stan's DART Tool | ● | ● | ● |
| 空気を入れる | Trek Air Rush/携帯ポンプ/CO₂など | ● | ● | ● |
| 仏式バルブコアの着脱 |
Stan's DART Tool内蔵ツール ロング以上はLEZYNE Multi Chain Pliersでも対応 |
● | ● | ● |
| チェーンを切る | LEZYNE Multi Chain Pliers | — | ● | ● |
| チェーンをつなぎ直す | 使用チェーンに適合する予備クイックリンク | — | ● | ● |
| クイックリンク脱着 | LEZYNE Multi Chain Pliers | — | ● | ● |
| ローターの軽微な修正 | LEZYNE Multi Chain Pliers | — | ● | ● |
| スポーク・ニップル調整 | 愛車のニップルに適合するスポークレンチ 例:Park Tool SW-0 |
— | — | ● |
| サイドカットの外側応急補修 | パッチ/接着剤などの応急補修材 | — | — | ● |
| 失ったシーラントを補充 | Stan's シーラントの携行分 | — | — | ● |
●は、この構成例で対応できるようにする作業です。同じ工具が複数行に出てきても、何本も持つという意味ではありません。チェーン工具は適合するものを選び、SRAMフラットトップなどでは対応工具へ置き換えてください。DARTを使わない構成では、必要に応じてバルブコアツールも別途用意します。
林道やトレイルなど、すぐに助けを呼びにくい場所まで走るなら、タイヤの外側補修に使う接着剤やパッチ、応急固定用のダクトテープ、ビニールテープ、ジップタイなどを少し加える方法もあります。詳しい補修方法は別の記事に譲りますが、専用品以外にも応用できる道具はあります。
何を持つかだけでなく、手元にあるものをどう応用できるか。そこまで考えておくと、トラブルへの対応力はかなり広がります。
UNBOUND・王滝に学ぶバックアップの考え方
人里離れたフィールドを走る過酷なイベントでは、工具や修理用品は単なる「念のため」ではありません。トラブルに見舞われても、自力で復帰し完走するための装備です。
UNBOUND Gravelの装備から学ぶ
アメリカの長大なグラベルレース「UNBOUND Gravel」の公式装備チェックリストでは、チューブレスタイヤであっても予備チューブ2本以上の携行が推奨されています。
さらにプラグ、チューブ用パッチ、タイヤブートや補修テープ、空気を入れる手段、タイヤレバー、愛車に必要な六角レンチ、チェーンツール、スポークレンチ、予備クイックリンクなども挙げられています。
一つの方法で直らなければ、その次。それでもだめなら、さらに次。条件が過酷になるほど、バックアップを何段階も用意しておく必要があります。
出典:UNBOUND Gravel公式ルール「Equipment Checklist」
王滝も「自己完結」が基本
国内の「SDA王滝」でも、「自己完結」を基本理念として、工具やスペアチューブなど必要装備品の携行が求められています。チューブレスタイヤの場合は、パンク修理材などの代替品も認められています。
速く走るための装備だけが、レース装備ではありません。パンクしても直せる。チェーンが切れてもつなげる。「走れなくなったときの備え」まで含めて、完走のための装備です。
普段の1〜2時間のサイクリングで、UNBOUNDや王滝と同じ量を持つ必要はありません。取り入れたいのは装備の量そのものではなく、助けを得にくいほど、最初の方法で直らなかった場合まで考えるという考え方です。
出典:SDA王滝公式ルール「クロスマウンテンバイク・レース参加者の必要装備品について」。参加する際は、その年の最新ルールを確認してください。
使わずに帰れたら大成功。無事に帰るための備え
携帯工具は、できれば一度も使わずに帰ってきたい道具です。使わずに済んだからといって、「持っていく意味がなかった」わけではありません。何事もなく無事に帰れたなら、それが一番です。
でも、出先で予期せぬトラブルが起きたとき、「もう動けない」と途方に暮れるしかないのか。それとも、「これを使えば何とか自走で帰れるかもしれない」という次の一手が残っているのか。その違いは大きいと思います。
最後に、今の自分の備えを10秒だけ確認してみてください
- 愛車のボルトへ実際に届き、差し込んで回せる工具を持っていますか?
- タイヤを実際に外せるレバーを持っていますか?
- タイヤシステムに合ったパンク修理の手段がありますか?
- 修理後に空気を入れる手段があり、CO₂の残数や電動ポンプの充電も確認していますか?
- 遠出するなら、使用チェーンに適合するチェーンツールと予備クイックリンクがありますか?
- 最初の修理で直らなかった場合の次の手がありますか?
- 林道やトレイルなら、サイドカットやスポーク、ローターまで考えていますか?
自分のライドで「起きたら困る」と思う項目に備えがなければ、そこが次に見直したいポイントです。
機能数ではなく、本当に使える工具を持つ。
完走するために。無事に帰るために。
携帯工具は、そのための「選択肢」を持ち歩くものです。
自分の愛車と走り方に合う「帰るための備え」を揃えておこう
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