今さら聞けない!?意外と知らない?変速の基礎知識と上手なギア比の選び方

2020年6月24日by Shopify API

自転車を買うときに気になるスペックの一つがコンポのグレード。重量や操作性もさることながら、「段数の違いが、何やら重要そうな気がする」という方も多いのではないでしょうか。実際、ホームセンターや自転車屋さんのチラシなどでは「シマノ製24段変速」みたいな表記をよく目にします。

乗り始めてからは「段数の多さに惹かれて買ったのはいいけど、イマイチ使いこなせていない気がする」という声も聞こえてきます。「慣れれば無意識でも上手に使える」とベテランライダーは言うけれど、ちゃんと説明してくれる人に出会ったことがないなら、この記事を読んでみてください。簡単なことを難しく説明します(笑)。

前半で基礎知識、後半で上手な変速の仕方を紹介しますので、ちょっと長いですがお付き合いください。

そもそも変速って何?

(ドキッ。やめて、そんな質問)「いや〜、まあ、その…文字通り、速度が変わるってことだな、うん。」

辞書にもそう書いてあるから、間違っているとも言い難いのですが、どうもしっくりこない。ガシガシ漕いで加速していても、ギアを変えなければ「変速している」とは言わないし、ブレーキをかけて減速するときも、速度は変化するのに「変速している」とは言わないですもんね。どうやら「変速する」というのは「ギアを変える」ことだと言えそうです。

では、ギアを変えると何が変わるのか。自転車ではギアを変えると、ペダルを踏む足が一回転した時に、チェーンを介して回転する後ろの車輪の回転数が変わります。ロードバイクの場合、重たいギアでは足が一回転する間に車輪が約5回転もするのに、軽いギアでは足が一回転する間に車輪が1回転チョイしか回りません。つまり、変速することで、足の回転に対する「車輪の回転速度が変わる」ということが、お分かりいただけるかと思います。厳密に言えば、前と後ろの歯車で歯数(ギザギザの数)が違えば、足の回転と車輪の回転に差をつけることになるので、ギアが前後1枚ずつの場合も”変速している”のですが、通常は、その回転数の比率を複数選べる多段変速機構を変速機と呼び、変速機を操作することを「変速する」と言っています。

自転車の移動速度は、車輪の回転速度に比例するので「変速するとスピードが変わる」と言うのはあながち間違いではないのですが、実際には、ギアが重すぎて足の回転が遅くなってしまい、スピードに結びつかない、なんてこともありますよね。それを解決するためには、段数を多くするのが一つの手なんですが、ここからまだまだ奥が深いんですよね〜。

ギアの段数は多い方がいいの?

変速機なしより7段、7段より18段、18段より24段の方がなんとなく良さそうな響きですよね。段数が多い方が値段も高くて、よりスポーティーなイメージだったりしませんか?ひょっとしたら、段数が多い方が速いんじゃないか、という気すらしてきます。でもって、いざ24段変速の自転車を買おうとお店に行って、改めてギアの枚数を数えてみると全然24枚もついてない!チクショー、JAROに報告だ!と、ならないためにも、読み進めてください。

実は、自転車の変速段数は、前ギアの枚数と後ろギアの枚数を掛け合わせて表しているんです。例えば、前のギアが3枚で、後ろのギアが8枚だと3x8=24段となるわけです。まあ、そこまでは「実は」なんて勿体ぶる話でもないかもしれませんが、この先は意外とビミョーです。「24段と27段、どちらが上位モデルか?」と聞かれたら、無条件に27段と答えたくなりませんか?プロショップの店員でも、8割くらいはそう答えると思います。上位モデルほど段数が多いという頭があるからです(事実なんですけどね)。ところが、同じ人に「22段と27段。どちらが上位モデルか?」と聞くと、ちょっと悩むと思いますが、ほぼ全員が22段と答えると思います。24<27<22…あれ?! 算数弱めか?

7~12SPD 7速から12速のカセットスプロケット

実は(今度こそ)、スポーツバイクの後ろのギアは、総段数では語り尽くせないほど種類があるんです!なんと、7枚から12枚まで‼︎ これに前のギアが1〜3枚で掛け合わされると、もうカオス。そこで一般的になったのが、(前ギアの枚数)x(後ギアの枚数)で呼ぶスタイル。2x12、1x12、2x11、1x11、2x10、2x9、3x9…といった具合に、総段数表示に比べてどんな自転車なのか、実際のパーツ構成もイメージしやすくなります。そして、総段数ではわかりにくかったパーツのグレードも、後ろギアの段数に注目すると違いが見えてきます(ここは直感通り、枚数が多い方が上位グレード)。

モノの良し悪しの基準は人それぞれですが、前後ともギア1枚ずつで変速機なしの「シングルスピード」がサイコー!という人以外は、後ろのギア枚数は多ければ多いほど有利です!そのことを理解するために重要な、多段変速のギア比について、具体例をみながら説明してみたいと思います。

ギア比とは?

ここまではギア板の枚数について語ってきたわけですが、今度はギア1枚1枚についている歯の数に話が移っていきます。ギア比の話に入る前に、歯数についておさらいしておきましょう。

ギアについている歯の数を知るには、それぞれのギア板についている突起の数をぐるり1周数えるか(多いと大変!)、カタログなどで歯数の記載を探します(ギア板に小さな字で刻印されている場合もあります)。歯数は数字と単位Tで表すのが一般的で、例えばトレックのドマーネSL6というロードバイクの場合、前の大ギアの歯数は50Tです(Tは、歯を意味する英語の”tooth”から来ており、日本ではアルファベットのTを漢字の「丁」に見立てて50丁(ごじゅっちょう)と言ったりします)。

カタログでは、50-34Tや11-34Tといった具合に、一番重いギアと一番軽いギアの歯数で表記されます。大きい数字が先に書いてあるのがクランクの項目に記載されるチェーンリング(前ギア)の歯数構成で、トリプル(3枚)の場合は50-39-30Tのように3枚とも歯数を示します。一方、小さい数字が先にくるカセットスプロケット(後ギア)の場合は、最小と最大だけで中間ギアの歯数が省略されることもよくあります。細かく知りたい場合は、もうひと調べしないといけないこともありますが、全体を表すときには11-13-15-17-19-21-23-25-27-30-34Tのように、かなり長くなるので仕方がないですね。前述のドマーネSL6のギア構成はまさに、この例にあるフロントダブル(2枚)の50-34T、リア11速の11-34Tとなっております(何故だか、前は“〇〇マイ”、後ろは“XXソク”と数えるのが、“〇〇段”よりカッコいいらしい…完全に余談ですが)。

さあ、いよいよ本題に話を戻します。足の回転に対して、車輪の回転速度を変化させるのが、変速だという説明をしてきましたが、足の一回転に対し、車輪がどのくらい回転するのかを表しているのが、自転車におけるギア比です。通常は、(前ギアの歯数÷後ギアの歯数)で計算し、数字が大きい方が重いギア、少ない方は軽いギアということになります。

ドライブトレイン 足を一回転させた時に、車輪が何回転するのかを表すのがギア比

ギア比に関して多くの人が気にしているのは「もっと速く走りたいのに、ギアが軽すぎてそれ以上こぐことができない」という経験からくる一番重いギア比の問題と、「よく通る場所にある激坂で、足をつかずに登り切れるか」という一番軽いギア比の問題です。この両極端のギア比の幅のことをレンジと言います。

ギア比が何なのか、基本的な理解が深まったところで、段数との関係を見ていきましょう。

ギア比と段数の切っても切れない関係

せっかく買う自転車なら、速く走れて、どんな地形にも対応できる万能な自転車が欲しいですよね。そうすると、できるだけレンジの広い自転車が良いのではないかという気がしてきます。ところが実際には、どんなに重たいギアも、踏めなければ速度には結びつかないので、必要十分というものがありますし、軽い方も、自転車のバランスが取れないほどゆっくりになるようなギア比は使えないということになります。

そしてもうひとつ、考えなくてはいけないのが、隣り合うギア同士でギア比の変化が大きすぎると使いにくいということ。直感的な理解のために、下の絵を見てください。 多段変速のギア比を階段に喩えています。レンジの広さは階段の長さに相当し、階段が長ければ、より高いところまで登ることができます。普通の階段なら、長くなれば段数が増えるところですが、この階段は長くても短くても同じ段数しかついていません。このままだと4階以上の住人は困ってしまいます。 一段一段を少しずつ大きくして、なんとか4階までは登れるようになりましたが、最上階の住人が困ってしまう状況は変わりません。 一気に最上階まで行けるようにと、頑張って長くしたら、今度は一段一段が大きすぎて歩きにくくなってしまいました。これでは2階以上の住人全員がしんどい思いをすることになります。ギア比に話を戻すと、段数に対してレンジが広すぎる状態は、この階段のように一段の変化が大きくなって、辛くなってしまった状態です。階段の一段一段が大きすぎるのと、隣のギアまでのギア比が離れすぎているのはとてもよく似た状態になります。

では、ギア比の極端な変化を抑えながらレンジを広げるにはどうしたら良いでしょう?

ひとつは、段数を増やす方法です。いきなり前提条件を崩すようですが、普通の階段なら長くなると段数は増えますよね。ギア比の場合も同じで、レンジを無理なく広げるためには段数を増やすのが良い方法と言えます。まだ少し段差は大きめですが、1階から5階まで、一気に駆け上がったり駆け下りたりすることができて便利になりました。 実はこれ、MTBのハイエンドモデルで定番になっている1x12(ワン・バイ・トゥウェルブ)ドライブトレインのことなんです。前のギアが1枚、後ろが12速の構成となっているこのシステムは、上から下まで迷わず素早く行けるこの階段と同様に、何も考えずに直感的にギアを選べるので、路面の凹凸を全身で吸収しながら、ライン取りやスピードコントロールなど多くの判断を瞬時にこなさなければならないオフロード走行に最適なんです。地形とスピードの変化が秒単位で目まぐるしく変わるマウンテンバイクのライディングには、隣のギアとの差がちょっと大き目でも、素早く必要なギア比に移行できることが大きなメリットになります。チェーンのトラブルも抑えられますしね。

さあ、この階段が後ろギアの比喩だったことがすっかり理解できたところで、一旦、簡単にまとめておきます。

後ろギアを多段化すると…
  • 重たいギアまたは軽いギアを追加できる=より広範な地形の変化に対応できる(ワイドレンジ化)
  • 中間にギアを追加できる=隣りのギアとの歯数差を小さくできる=ちょうど良い重さが見つけやすい(クロスレシオ化)

では、他の方法も見てみましょう。上の例がヒントになったかもしれませんが、1段1段の大きさを抑えつつ、最上階まで階段をつなぐためには、階段そのものを増設する方法があります。 2本の階段を駆使して、まっすぐ駆け上がったり、ジグザグに階段を使い分けたりすることができて子供は喜びそうですね。大人は、1階から5階までの上りなら、まず4階まで一気に登ってから別階段で5階まで、下りは5階から2階までを一気に降りて、別階段で1階までといったルートに落ち着くと思います(ちょうど真ん中の3階で水平移動というのもありです)。

実はこれ、ロードバイクで一般的な、フロントダブルのシステムのことなんです。前のギアが2枚あることで、後ろのギアが2セット分使えるようになっています(同じ階段を、段違いで2セット持っているのと似たようなことになります)。効率的な変速機の使い方については後述しますが、実際の変速パターンも、階段の上り下りのルート選びと非常によく似ているんです。

ここまでくると、階段が3本あればさらに1段1段を小さくすることができて、足腰に優しいんじゃないかという気になりますよね。 ジャジャン!

…なんか階段がいっぱい…真ん中の階段、必要? まあ、狙い通り、足腰には優しそうな傾斜になりましたが…どう上り下りするのが良いか迷っちゃいそうですね。階段だらけで重さが建物に負担をかけそうな気もします。3x12の36段変速って物理的には可能ですが、やらない理由がこの辺にあります。ただ、フロントトリプルが生きてくる場面も、もちろんあります。それがこれ。 少ない段数の階段で最上階までつなぎたい場合で、かつ2階から4階を行き来する頻度が高い場合の階段レイアウトです(普通の建物なら、真ん中の階段は無くても良さそうなので、ちょっと強引に必要な理由を付けました)。真ん中の階段は、下の階段の上半分と、上の階段の下半分を足したものなので、機能としては完全に重複しています。実はフロントトリプルでも似たようなことが起きます。真ん中のギアが必要な理由は、常用するギア比が真ん中あたりに多いから、というのと、真ん中のギアがないと変速操作がものすごく大変だからというのがあります。詳しい説明は、後半の最後で触れていきますので、とりあえず一旦まとめましょう。

前ギアを多段化すると…
  • 隣同士は近いギア比のままレンジを広げることができる(クロスレシオのままワイドレンジ化できる)
  • 後ろギアの枚数が少なくても、無理なくワイドレンジ化できる
  • 重複するギア比が多く、ちょっと操作が煩雑で、重量は増えてしまいがち

次はいよいよ上手な変速の仕方に進みます。 前半の基礎知識をもとに、後半戦へ突入します。

 

変速機の上手な使い方

階段の説明だけでは、ちょっと限界にきていたので、本物の自転車を例に解説を進めます。

トレックのFX3 DISKというクロスバイクを見てみましょう。前は46/30T、後ろは11-36T(11-13-15-17-20-23-26-30-36)の2x9です。最大ギア比は4.18、最小は0.83です。

FX3DISC 通勤、通学に大人気のFX3 DISC

下のグラフは、青い線がアウターリング(前の大ギア)と後ろの各ギアとの組み合わせで得られるギア比、赤い線はインナーリング(前の小ギア)と後ろギアとのギア比を示しています。 青と赤が重なっているところがあるのがお分かりいただけるでしょうか。この部分ではギア比が重複しています。つまり、アウターを使ってもインナーを使っても、ほぼ同じギア比になる組み合わせが存在するということです。階段で言うと、下の絵の2階〜4階部分で、どちらの階段を使っても同じ高さに到達できる状態に相当します。 ここで注目して欲しいのは、両方の階段で地面からの高さが同じになるのは、例えば下の階段の5段目と上の階段の1段目といった具合に、ワンフロア分(階段4段分)のズレがあると言うこと。同じことがFX3 DISCでも起きています。ギア比のグラフの元になった表を見てみましょう。 まったく頭に入ってこないですね。これを、形を変えて階段の例と同じように読み解くと、こうなります。 はじめにワンフロア3段分の差があって2階〜3階部分が重複している5階建(5階には上り階段がないので、上の表は4階までしか書いていません)であることが分かります。重たいギアから軽いギアへ順にシフト(変速)していく場合、例えば上の表の赤字部分のように46x11Tの4.18に始まり、3階の踊り場まで登り切ったところで30x17Tの1.76につなぎ、最終30x36Tの0.83に至る、というやり方が考えられます。実際の変速では、「後ろを大ギアに向かって1段ずつ5回変速した後、前をインナーに落とすと同時に、後ろを2段戻す」という操作になります。ポイントは前を1段変えるときに後ろを2段動かすというところ。この自転車の場合、前1段に対して後ろを3段動かすと元のギア比に戻るので、2段戻せば1段前進したことになります。

軽いギアから重いギアに変速する場合も、同じような考え方で操作することができます。5階から3階まで一気に進み、2階に向かうところでフロントをアウターに上げつつリアを2段軽くします。

ギア比の並びだけを見ると、2階〜3階部分の間であればどこでフロントの変速をしても良いのですが、変速のベストタイミングを決めるにはまだ検討の余地がありそうです。どんなことを考慮に入れるべきなのでしょうか?

効率のよい変速とは?

ギア比の並びにあった、つながりの良い箇所を見極める、というのが変速機の使い方としては肝なのですが、ギア比以外にも気にしておいた方が良い、重要なポイントがいくつかあります。いろんな方向に話が飛びますので、しっかりついてきてください。

ケイデンス

初心者には耳慣れない言葉かもしれませんが、ケイデンスとは1分間あたりのクランクの回転数のことです。運動強度が上がると心拍数や呼吸数は上昇しますが、強度を下げたり、少し休んだりすると短時間で回復させることができますよね。一方、筋肉は大きな負荷をかけると疲労が蓄積し、回復に時間がかかります。心肺への負荷と、筋肉への負荷のバランスがうまく取れると、ある程度高い強度の運動を長時間続けることが可能となりますが、ケイデンスはそのバランスの指標となるんです。個人差はありますが、一般的に平均90回転/分が効率の良いケイデンスだと言われています。左右の足を一回ずつ踏み込むとクランクは1回転しますので、結構早いテンポでクルクル回しているイメージです。状況に応じて60〜120回転/分くらいの振れ幅はあっていいのですが、平均して90前後を目指すと良いでしょう。

状況に合わせて適切なギア比が選べるのが変速機のメリットですが、「適切なギア比」というのが、このケイデンスを一定にできるギア比のことなんです。重すぎるとケイデンスは下がってしまい、軽すぎると足が追いつかないほどケイデンスは上がってしまいますので、これを避けて、90回転/分前後のケイデンスを維持できるようにギアを選ぶと、ちょうどよく上手に変速できているということになります。無理なく毎分90回転できる一番重いギア比が、その時に最適なギア比である、と言い換えることもできます。

自動車やオートバイが好きな方なら、エンジンを壊すことなく、パワーを出しやすい回転域でシフトチェンジするために、タコメーターを見ていると思いますが、自転車の場合はケイデンス機能付きのサイクルコンピュータを使います。距離や速度を知るだけならスマホのアプリもなかなか優秀ですが、上手な変速を覚えたい方は、是非ケイデンスが測定できるサイクルコンピュータを使ってみてください。

ディスプレイ ケイデンスが測定できるBONTRAGER RIDE TIME ELITE。CADと表示されているのがケイデンスの値
変速の話からは少し外れますが、フィットネスや、ダイエット(減量)の目的でサイクリングをする方も、ケイデンスを意識すると効果的です。適切なケイデンスでペダルを回し続けると、ちょうど良い有酸素運動になるからです。重すぎるギアで脚がパンパンになったり、漫画のように足が見えないほど早いケイデンスでは無酸素域に入ってしまっている可能性が高くなります。また、偏った筋肉しか使えないペダリングでは、すぐに疲れてしまい有酸素運動の効果が得られにくいので、正しいフィッティング(適切な乗車姿勢のためにサドルやハンドルを調整・交換すること)も重要です。

地形と速度変化

なぜ変速するのか?それは地形と速度が変化するから。

いま「そんなの当たり前じゃないか」と思いましたね。でも、意外に多くの人が、地形と速度が変化したから変速しているんです。登りがしんどくなったからギアを軽くする、速度が上がって足が追いつかなくなったからギアを重くする、といった具合に。本当は、今「スピードが上がっている or 下がっている or 巡航している」ということと「地形が平坦 or 傾斜がきつくなっている or 緩くなっている」ということを総合的に判断する必要があるんです。上手な人ほどこまめに変速しているものですが、それはこの状況判断が上手だからだと言えます。

一定のケイデンスで平坦路を巡航している状態を想像し、今のギア比を基準にイメージしましょう。そこに登り傾斜が迫っていれば、速度は低下しますので、一定のケイデンスを維持するにはギア比を軽くしなければいけません。問題は、いつその変速をするのかということ。よく「早めの変速を心がけましょう」とは言いますが、早過ぎれば坂の手前で失速してしまい、せっかくの勢いを活かせません。きつくなってからでは筋肉への負荷が大きくなり、回復に時間がかかるため、ギアを軽くしても楽にならなくて、必要以上に速度を落としてしまう原因となります。これらの間にあるちょうど良いところを予測して、変速に備えておく、というのが曖昧ですが正解です。

ダンシング ダンシングの時は1〜2段重くすると良い

登りがつらくなってくると、ギアを軽くすることだけに意識が向きがちですが、勢いをなるべく保ったまま走るというのも大事なポイントです。斜度が増すような傾斜の変化がある場合、ギアを軽くするだけが正解とは限りません。一時的な斜度の変化(登りの途中にある左ヘアピンカーブなど)の場合は、ギアを軽くせずにダンシング(立ち漕ぎ)を入れることで速度低下を防ぎます(もちろん、斜度変化を小さくするために大回りするなど、ライン取りも重要です)。

斜度の変化を乗り切るためではなく、積極的に加速する場合や、使う筋肉を変えたい場合に使うダンシングの時は、ギアを1〜2段重くしながら立ち上がると良いでしょう。軽いままダンシングに移行した時のスカッと抜ける感じは、却って疲れてしまいますよ。

変速ショック

変速ポイント 大ギアの表面に刻まれた凹凸がチェーンの通り道

カセットスプロケットやチェーンリングの表面や歯先には、変速ポイントと呼ばれる、チェーンの通り道が作られています。チェーンが移動し、次のギアに乗り移る時、設計意図通りの変速ポイントを通過すれば、チェーンは暴れる事なくスムーズに変速を完了します。ところが、強引な変速や斜めがけからの変速では、変速ポイントを外れて落ちるように変速することがあり、ガチャンという音と共に、足にもギア比の差以上の衝撃がきます。変速ショックというこの現象は、繰り返し発生したり、高負荷で頑張っているときに起きると、疲労(肉体的にも精神的にも)につながります。

上位グレードのコンポーネントほど、この変速ショックも小さくなるように設計されていますが、それでも一気にチェーンを弛ませるような操作をすれば発生しますし、ギリギリまで粘って限界からの変速では、負荷の変化だけでもどっと疲れます。早めの丁寧な変速を心がけましょう。

タイムラグ

リアの変速は軽くするのも重くするのも素早く、負荷がかかっていてもちゃんと変わってくれますが、フロントは1段変えると、同時にリアを2〜3段変えなくてはならないので、瞬時にギア比を合わせるのが難しくなります。また、フロントは歯数差が大きい=直径の差が大きいため、チェーンの物理的な移動距離が長く、反応自体も遅くなりがちです。実は、反応が遅くなるのは、チェーンの張りにフロントディレーラーが負けるからなんです。自転車を真横から見ると、リアディレーラーは後ろギアの下にあるのに、フロントディレーラーはギアの上についていることに気が付きますよね。

ペダルを踏み込むと体重の何倍もの力がチェーンを介して後輪に伝えられますが、そのときにチェーンは張力によって1本の鉄の棒のように硬くなっています。それをあのペラペラな金属片であるフロントディレーラーでチョイと横から押して脱線させるのですから、多少は押し戻されてしまうわけです。渾身の力で踏み込んでいるときにフロントの変速がもたついたり、変速しなかったりするのはこんなことが起きているからなんです。上手な人は、一瞬、踏み込む力を抜いて変速しますが、これってまだ余裕があるタイミングじゃないと無理ですよね。

変速の複雑な操作が完了するまでのタイムラグ、ディレーラーのもたつきからくるタイムラグや、それを避けるための一瞬の抜重によるタイムラグなどを見越して、勢いを殺さずに変速するには、ギリギリのタイミングでは間に合いません。すると、先の地形を見て、自分の体力的な状態も鑑みながら、今よりどのくらい軽いギアが必要になるのかを予測することが必要になります。今より傾斜がきつくなったり、今のテンポを維持できないほど長く続く登りなら、勢いと余力のあるうちにフロントを変速しましょう。その際は、元のギア比になるように後ろを変速すると失速を防げます(FX3 DISCの例なら3段変える)。

逆に、アウターのまま登り切れることが分かっていれば、後ろのギアに余裕を残してフロントを変速するより、効率的な場合もあります。上のFX3 DISCの例で言えば、残り3枚を残してフロントを変速するのではなく、後ろギアの残りで乗り切ってしまうという方法です。いつも使えるベストな方法ではありませんが、坂がそんなに長くなければ、シンプルな操作で素早く変速が完了するリアで完結するというのもありです。

チェーントラブル

チェーン落ち(チェーンが外れること)を経験したことがある方も多いと思います。よっぽどの悪路を走行中や、酷く調整が狂っている状態でなければ、チェーンが落ちるのは99%変速操作中と言い切れます。自転車の外側(進行方向右側)にチェーンが落ちるのは変速調整が甘い可能性が高く、変速のやり方で改善できることは少ないですが、内側(自転車の中心寄り)に落ちる場合は操作のタイミングを変えることで改善するかもしれません。

考えられるのは、重いギアから軽いギアに変えていく流れの中で、リアを最大ギアまで変速してからフロントの変速をするような場合。アウターxロー(あうたーろー)と呼ばれる一般的に「やらない方が良い」とされる組み合わせ(またの名を「斜めがけ」)からフロントをインナーに落とすのは、チェーン落ちのリスクが高い変速方法です。大ギア同士にチェーンがかかった状態は、最もチェーンが引っ張られた状態ですが、歯数差の大きいフロントの変速では一気にチェーンにたるみが生じ、チェーンが暴れて外れやすくなります。さらに悪いことに、後ろの大ギアは最も自転車の中心寄りにあるため、たるんで暴れているチェーンを自転車の中心に引き寄せようとします。加えて、ギア比を合わせるために2段ほどリアを重くする操作がほぼ同時に行われると、内側に引っ張られる力は弱くなるものの、チェーンのたるみはさらに大きくなります。

そもそも、チェーンやギア周りの摩耗を加速し、摩擦抵抗も体感できるほど機械的ロスが大きいために、「使わない方が良い組み合わせ」としているので、もう少し早いタイミングでフロントの変速を行うようにしましょう。止むを得ずその状態になってしまったら、リアを重くする操作の開始を少し早めにして、フロントの操作を一瞬遅らせるようにすると多少はリスクの軽減になると思います。

アウター x ロー、インナー x トップ チェーントラブル、機械的ロスとも発生しやすい組み合わせ

機械的ロス

チェーントラブルの項目でも少し書きましたが、機械的ロスとは主に摩擦によるエネルギー損失のことです。ベアリングの回転抵抗も無視はできませんが、一番大きいのはチェーンが稼働する時の摩擦抵抗です。チェーンは1台に100リンク以上の細かい部品で構成されており、それぞれのリンクでエネルギー損失が起きているんです。動かし続ける限り摩擦をゼロにすることは不可能ですが、必要以上に抵抗が発生するような使い方を避けることで、効率よく自転車を走らせることができます。ではロスの少ない走り方とはどういうことでしょう?

チェーンはなるべくまっすぐ流れている状態が一番スムーズで、横方向にこじられるような力が加わると大きな抵抗が発生します。チェーントラブルの項で説明したアウターxローや、その逆のインナーxトップ(前後とも小ギアの組み合わせ)はその最たるものですが、それ以外の組み合わせでも前後ギアを真上から見た位置のズレが大きくなればなるほど抵抗が増えていきます。また、ギアに巻きつくときにチェーンの屈曲が大きくなるのもロスにつながります。インナー・トップは顕著にこの状態になりますのでオススメしません。また、フロントの変速は、それ自体が摩擦の大きな動きです。どのタイミングでフロントを変速すべきか迷ったら、その先の地形に照らして、なるべくチェーンの流れが真っ直ぐになることと、フロントの変速頻度を抑えられることを天秤にかける(あるいは両立する)ことを意識しましょう。

フロントトリプルの使い方

ここまでくれば、前ギアが3枚の場合も、上手な使い方の見当がつきますよね。階段の例にあった「真ん中のギア、本当に必要?」という疑問にもちゃんと答えられるはず。 一応、念のため答え合わせをしておきましょう。3x8のFX2 DISCを例にしています。 もうお分かりですね。センター(前の中ギア)を軸に考えるとこうなります。 フロントの変速頻度は上がりますが、機械的ロスを減らす事を狙ってこんなパターンもありです。 いずれも、フロント1段に対してリアを1段逆方向に動かすだけで、つなぎの良いギア比が得られます。もちろん状況によって、もっとフロント変速のタイミングをずらした方が良い場合もあり得ます。

階段の例だと不要に見えた真ん中のギアですが、無いと困りますよね。美味しいギア比がたくさん得られるから、というのはもちろんですが、センター無しの変速パターンを想像してください。前1段に対して後ろを3段戻す操作になります。変速ショック、タイムラグ(もたつき)、チェーントラブルなど、いろんな面で不利になることが分かりますね。

まとめ

いや〜、長かったですね。お疲れ様でした。

楽しいサイクリング中に「ちょっと変速について教えてくださ〜い」なんてうっかり聞けないですね…いや、そんなことはないです。もっとさらっとライトに教えてくれる人の方が多いはず(私も、普段はここまでやりません)。

考え方がなんとなくでも分かったら、あとは実践あるのみ。上手な人の後ろについて、同じケイデンスで走るようにすると、自然と上手な変速が身につきます。

えっ?それだけ?。早く言ってよ〜。

あ、そうそう、シマノの電動変速にするっていう手もあります。シンクロシフトという機能を使えば、リアの変速操作だけでフロントは勝手にいい位置に変わってくれる優れものです(フロントを変えるとリアが対応してギア比を合わせてくれる機能もあります)。

フロントの変速、やっぱりちょっと無理かも…と思ったら