悩ましいマウンテンバイクのハンドル幅について掘り下げて考えていきたいと思います。先にお断りしておきますが、これだ!!という明確な答えにはたどり着いていません。そもそも答えは人それぞれです。ご自身のハンドル幅を決める上での参考になれば幸いです。
おすすめハンドル
View allはじめに
600mmに満たないハンドル幅しかなかった時代を知る者として、最近のマウンテンバイク完成車に標準でついてくる超ワイドハンドルには驚きを隠せません...
最近(2020年1月)みんなで持ち寄って乗り比べたリアルXCマシンのスーパーキャリバー9.7には720mm、e-MTBのパワーフライ5には750mm(Sサイズには720mm)、フルサスe-MTBのレイル9.7には780mm、くだり系のレメディ8とスラッシュ8には820mmもの幅のハンドルが標準でアッセンブルされています。同じマウンテンバイクなのに(700mmオーバーなのですでに充分すぎるほどワイドな気もしますが)狭いものから広いものまでなんと100mmもの違いが!!
私自身ここ7,8年は頻繁に山を走ることもなかったこともあり丁度いいハンドル幅についてはあまり深掘りすることもなく乗っていました。
26inch時代の終わりごろに感じていた680mmくらいがいいかなーという感触だけが残ったまま29erに乗るようになりハードテールでは700mm前後、フルサスでは740〜760mmを使うようにしたものの、たいして使用感を深掘りせぬまま今日まで使っていたのですが、流石に780mm、820mmという超ワイドハンドルは衝撃でした。
何しろ2000年くらいまではマウンテンバイクで山走るなら「肩幅プラス拳1個分」という考え方が主流でしたもので。この20年の間に若者の拳サイズが片手で5センチ程度大きくなったことも考えにくいですし、肩幅がこの20年で10cmも広がったことも考えにくい(笑
だとするといったいマウンテンバイクのハンドル幅はどうやって決めれば良いものなのだろう??? 820mmものワイドハンドルの良さっていったいなんだろう???と色々気になってきます。
そんなこんなで、何十年も変化がない、肩峰から肩峰までの距離とほぼ同じ幅で選ぶのが基本となっているロードバイクのドロップハンドルの幅選びとは違い、なんとも曖昧な気がしてならないマウンテンバイクのハンドル幅選びについて考えていきましょう。お付き合いください(笑
MTBハンドルワイド化の背景
タイヤ性能向上、サスペンションの誕生にストローク量の増加、車体やホイール、ブレーキなどのパーツ類の性能アップなどにより、未舗装路を走行できる刺激的な自転車マウンテンバイクが誕生した1970年代から比較すると、当時では想像もつかないほどラフでワイルドで刺激的な場所を走行できるようになりました。
高性能化の流れの中でフィッティングの考え方や流行りのジオメトリーも変わってきました。
今のMTBは昔は考えられなかったようなテクニカルな路面をより楽しく安全に走破できるようになっているのです。
中でも1980年代のサスペンションの誕生とサスペンションが沈み込む量の増加、21世紀になったばかりの頃のホイールサイズの大径化は、ハンドルのワイド化にものすごく関係しているように思います。
この2点を早速深掘りしてみましょう。
ワイドハンドル化の背景1
サスの誕生とロングストローク化
サスペンションが存在しなかった時代には走破が難しかったような連続する剥き出しの木の根や、大小様々な路面の凹凸や障害物、歩くのも慎重になるようなロックセクションなどのラフなダウンヒル路面も、サスペンションのお陰で車体を支配下においた状態のまま走行できるようになりました。
サスペンションを搭載したお陰でラフな路面をハイスピードで走れるようになったとは言え前輪の操作は難易度を増しました。
そうした中、前輪を巧みにコントロールするためにテコの作用が強く働くワイドなハンドルが使われるようになっていきました。(もちろんブレーキの制動力とコントロール性能も飛躍的に向上しています)
最初は30〜40mm程しかなかったサスもやがて200mmを超えるようなストローク量も登場し、マウンテンバイクもダウンヒル専用マシン、オールマウンテン系マシン、クロスカントリー特化型マシンなどカテゴリーが細分化しました。もちろんレースも遊び方もです。ライディングポジションの違いやパーツアッセンブルの違いもありますが、サスペンションのストローク量もカテゴリーの違いの目安になっています。
長めのサスペンションが搭載されるようになったダウンヒルをメインにした車体になると、XCバイクより重心位置を車体の後方に位置させなければならずステムを短くする必要が出てきました。それに合わせて、歴史的にXCバイクよりも先に前輪のコントロール性を確保するために広いハンドルがアッセンブルされるようになりました。
XC系バイクも機材の高性能化(ロングストローク化)が進みます。東京オリンピックのXCコースを見ると本当に驚きますが、ダウンヒルほどの長さでは続きませんがXCレースでもテクニカルなロックセクションや丸太越えのくだりなどが実に増えました。20年前と比べると上りが速いだけでは勝てない難しいレースになっています。くだりの巧みさと速さも勝敗を大きく左右するようになったのです。
ラフで難しいくだりでは、大昔の580mm、600mmなどの狭いハンドルよりもテコの原理が働くワイドハンドルの方が操作しやすくフロントホイールのコントロールが安定し速く走行できるわけです。
ワイドハンドル化の背景2
ホイールの大径化
2001か2002年くらいだったでしょうか(記憶違いだったらすみません)、26inchよりも径が大きい29erホイールを搭載したMTBがゲイリーフィッシャーから登場したことで、くだり系のMTBだけでなくXC系のMTBにもハンドルワイド化の波が押し寄せます。どこでも気軽に手に入った他の二輪車のパーツの寄せ集めから誕生したMTBに、オフロード自転車として必要な性能は何かを見つめ直して生まれた29er。MTBに新しい時代がやってきたわけです。
少し脱線しますが、MTBの生みの親であり29er生みの親でもあるゲイリーフィッシャーさんには何度かお会いしたことがありまして、29er構想はいつ頃から頭にあったのかという質問をさせてもらったことがあります。なんでも、1990年代半ばから後半に掛けて(具体的な年は聞いた気がしますが、すみません忘れました…)具体化しテストを繰り返していたそうです。で、車輪が大きい方がいいということはかなり最初の頃から分かってはいたけれども、そもそも26inchビーチクルーザー意外に流用できるモノがなかった。で、開発力のあるTREKグループに入っていたことでいっきに製品化につながったともおっしゃっていました。
さて。それで26inchよりも径が大きい29erはゲイリーが言うように実に走破性が高かったのであります。ただ、26インチの取り回し易さと比べると大味だったので特に日本では当初あんまり売れませんでした(笑)でもXCレースで29erが連続して勝利するなどして29erの良さがすぐに実証されその後爆発的にヒットして定番化しました。26inchMTBはファットバイクとダートジャンプバイク意外今ではほとんど見ることはありません。
径の大きさに加え外周部(タイヤもリムも)が重い29er車輪は、高速で回転していると26inchよりもジャイロ効果(回転していると真っ直ぐに立とうとする力と考えればよいかな?)が大きく発生し、コーナリングでハンドルをきったり、車輪を傾けたりする操作により大きなパワーが必要でした。不慣れだった頃は油断するとコーナー立ち上がりで膨らんでコースアウトしそうになることも(笑
XC系の完成車にも700mmを超えるハンドルが装備されだしたのもこのくらいからで、ワイドハンドルをレースシーンで使う人が増えたのも丁度このくらいからです。小さいホイールよりも曲がる寝かす操作に力が必要になったので、XCレースシーンでもテコの作用が働くワイドなハンドルが好まれるようになったわけです。
サスのロングストローク化とホイールの大径化。大きくこの2つがハンドルをワイドにしてきた訳です。
ところで、私が思うワイドハンドルのメリットとデメリットを次にまとめてみました。おおかた皆さん同じような意見かとは思いますが、あくまでも個人の体験からうまれた100%個人的意見ですが、よろしければご覧ください。
ワイドハンドル化のメリットとデメリット
サスペンションストローク量の増加とホイールの大径化に呼応してハンドル幅もワイド化してきたわけですが、ワイドハンドルにはメリットだけでなくデメリットももちろんあります。
ワイドハンドル化のメリット
1. コントロール性が上がる
マウンテンバイクのハンドルが機材の進化にしたがってワイド化してきたのは当然メリットがあるから。ではそのメリットとは? 操舵部だけあってコントロール性が上がるということに尽きると思います。
トレイルバイクやオールマウンテン、エンデューロ系バイクはもちろんXCバイクにとっても、ラフでテクニカルな路面での操作性を高めてくれるに違いありません。狭いハンドルより広いハンドルの方が「テコ」が働いて暴れる前輪を押さえつけることはもちろん、狙ったルートに前輪を通すためのコントロール性に優れているのです。
2. 呼吸が楽(な気がする)
MTBが大ブームだった時代のメッセンジャーの中には、車の間をすり抜けて走るような走り方をする人がたくさんいて、ロードバイクのハンドルなみに狭いハンドルが好まれていましたが、そのようなライダーの中にもワイドなハンドルの方が呼吸はラク、胸郭が広がって多くの酸素を効果的に取り込むことができる…と感じている人もいました。
実際のところ何かの実験でデータで示されていたりするのかは知りませんが、肩幅より狭いハンドルの場合は確かに息が辛い。ひたすら漕いでいる中でワイドハンドルの方が正直呼吸がラクと感じるのであればそれもメリットの1つとして捉えても良さそうですね。
ワイドハンドル化のデメリット
1. 場所によっては邪魔になる(経験者は語る)
1998年から2000年くらいだったでしょうか。富士見パノラマのダウンヒルコースにちょくちょく通っていた頃に当時の愛車(お金がなくてXCバイクでしたが)に720mmだったか740mmだったか忘れましたが、かなりワイドなライザーバーを取り付けた直後に、電柱にハンドルを引っ掛けてオデコを電柱にぶつけ血が滲んだことがあります。
ラフなダウンヒルコースでのコントロール性の良さを実感する前に、狭い場所には不向きなことを身をもって体験しました。メッセンジャーが狭いハンドル幅を好むのも当然でしょう。
それにしてもヘルメット大事ですよね。しっかり被りましょう(苦笑
また、慣れの問題も強いですが、木々が立ち並ぶシングルトラックなど、切り抜けられるかどうかわからないような場所に突っ込む時には狭いハンドルのほうが遥かに通り抜けやすいです。広いハンドルは狭いハンドルよりも視野を広くもつ必要があり、目線がブレ、躊躇がうまれたりしてタイムロスに繋がることもあります。それこそ引っ掛けて大転倒してしまうことも。
ゲレンデやパークなどの専用コースとは違い背の高い木々が立ち並ぶ日本の山岳トレイル(シングルトラック)に超ワイドなハンドルは、間違いなく不向きです。XCレーススタート時のバトルや追い抜いたりする際にも昔の距離感とは全く違うことを忘れずに。
2. 小柄な方や肩幅が狭い方は特に手首に無理が生じる
小柄なライダーや肩幅が狭いライダーにはワイドハンドルは適していないかもしれません。無理のある幅に腕を広げると特に手首に大きな負担がかかります。
ワイドハンドルを使うにしてもこの写真の女性のように、骨格や関節の可動域に無理のない範囲でワイドにしたいですね。手首の可動域を減らすような広すぎるハンドルは、バイクをコントロールしにくくなります。
ハンドル幅を変えようと思った時の注意点
ハンドル幅を変えようと思った時にどんなことに注意しておけばよいのか? にも軽く触れておきます。
ステムの長さとのバランスも考えよう!
今まで使っていたハンドルよりもワイドなハンドルに交換する場合は、ステムの長さを短くする可能性も並行して考えておくとよいです。ステムが遠いままでワイドなハンドルをつけると、ハンドルを大まわしするような感覚になりかえって操作性が損なわれることも。その場合はステムを短くすれば解決できます。
逆にワイドハンドルをかなりカットして一気に狭くしたい場合は、ステムを長くすることも視野に入れておいた方がよいかもしれません。もっとも、肩幅との兼ね合いで手首の関節の負担を減らすために狭くカットする場合がほとんどなので、まずはハンドルをカットしてしばらく乗ってみて操作性が向上したかを見極めると良いでしょう。
コーナリング時に前輪に外側から体重を乗せにくくなったり、ハンドルがクイックになりすぎたと感じるようであれば、ステムを伸ばすという判断かハンドルをやっぱり長いものに戻すという判断をすればよいでしょう。
私のレイル9.7は780から760にして結局今は800でステムを短くしてあります。
ステム関連
View allXC系バイクでくだりやタイトなターンをより楽しみたい場合は…
一般的なXC系のエントリーモデルを購入した後でくだりの楽しさにハマってしまった場合は、ステムを短くして少しライズのあるワイドハンドルに交換し、ドロッパーシートポスト(おすすめはこれ)に交換したりするだけでもくだりをよりアグレッシブに楽しむことができるようになります。もちろん標準装備のまんまで楽しむこともできますが、こういったカスタマイズをすることでよりくだりが楽しくなることでしょう。登りはXCポジションを維持した方が楽ですが。
フロントサスペンションフォークのトラベル量を100mmから120mmに、120mmから140mmに変更するとさらに楽しめます。あまり長くしすぎるとハンドリングがもっさりとしてしまうことも。慣れの範囲ですが。
ワイドハンドルはカットすることで好みの幅に調整できる!がしかし…
ハンドルは長い分にはカットすれば短くすることができます。ただし、カットして長さを調整する場合は、フィーリングが変わりすぎてしまうので一気に思いっきり短くしすぎないことが肝心です。
また、レバー類とグリップ、ハンドルに取り付けているライトなどのスペース分を確保することも忘れずに。長い分にはまた切ればいいですが、短くしてしまったハンドルは伸ばすことはできませんので(笑
結局のところMTBの適正なハンドル幅は???
最近の完成車にワイドハンドルがついて来るようになったのは前述のような背景やメリットがあるからです。
実際2020年の市販のXC系マウンテンバイクの多くに740mmや720mmのハンドルが標準でアッセンブルされていることが多いようですが、ネットに転がっていた情報によると、世界で活躍しているプロXCライダーには680mmや700mmといった現代の完成車の主流よりもやや狭めのハンドルを使っている人もそれなりにいるのだとか。
スラッシュやレメディなど、くだり色が強いモデルになるにしたがって完成車に標準でついてくるハンドルはさらにワイドなタイプになっていきます。
結局のところ...
どの程度の幅のハンドルを使うかは、どんな場所やコースに好んで走りに出掛けるか、どんな走りの好みがあるかが重要で、尚且つそれ以上に、よく出かける場所でのライドでどの程度の幅が結果的に自分自身が全身で上手にバイクをコントロールできていると感じることができるか…そういう要素が重要になってきます。
完成車メーカーの意図としては、どのタイプのバイクにもそれぞれに適した中で最長のモノをつけておくからお好みの長さに切って使ってね…ということでしょうか(笑) いずれにしてもクロスカントリーなら〜740mm、ハードテールでのトレイルライドなら〜760mm、フルサスのエンデューロなら〜780mmを一つの基準として考えてカットするかどうかを考えていくのをおすすめします。
以上、マウンテンバイクのハンドルの幅について掘り下げてみました。
ハンドルの操作性に影響するのは幅だけじゃないことも忘れずに
ちなみにハンドルの操作性は幅以外にも、ライズ(ステムからどれだけ上がっているか)、アップスイープ(端に行くにしたがってどれだけ上がっているか)、バックスイープ(端に行くにしたがってどれだけ手前に曲がっているか)と、ブレーキレバーなどの位置と角度も大きく影響してくるものです。
トライアル的な遊びを楽しむのか、腰を屈めた状態でのアグレッシブな下りスタンディングを重視するのか、登りのシッティングを重視するのかなど、各々のライディングスタイルの好みはもちろん、脇をしめてハンドルを握るのか腕を開き気味にハンドルを握るのかなどの癖によっても様々です。
なので、買ったバイクのハンドルが広すぎるかな…と思っても、すぐにスパッと短く切ろうとはせず、レバー類を少し内側にセッティングしてどの程度切るのがちょうど良さそうかじっくりと時間をかけて見極めるのがよいでしょう。
場合によっては幅をつめるのではなく、ハンドルの角度やレバーの角度・位置を調整するだけでしっくりくることもありますし、幅を詰めつつ取り付け角度も変えてみることでしっくりくることもありますので。
ライドを繰り返しながら、ハンドルやサドル、ペダルなどが自分好みのフィーリングになるように、微細な調整やパーツ交換で試行錯誤をするのもマウンテンバイク遊びの楽しさの一つです。
せっかく買ったカッコいいマウンテンバイク、思う存分楽しめるようにカスタマイズしてみましょう。マウンテンバイクのカスタマイズはバイクプラス各店までお気軽にご相談ください。ハンドルのカットも承っています!