亀裂が入る洗浄液使っていませんか?

上のチェーンはアルカリ性の洗浄液で腐食したチェーン。下のチェーンはプロチームが使用しているブランドの洗浄液を使って洗浄したチェーン。こちらは全く腐食していない。

自転車のチェーンに使用できるディグリーザーはネット通販で沢山売られている。そんなアイテムの中には、乗車中にチェーンが破断する可能性があるから危険使わないでくれ...とチェーンメーカーが警告している類いに当てはまるモノが実は存在している。

シマノのユーザーマニュアルに書かれている警告とは簡単にいうとこうだ。

『酸やアルカリはクラックが入る恐れがあるから絶対に使わないこと、使うと破断して大怪我をする。チェーンはクラックが入っていないか毎乗車前に点検をし、クラックがあったら絶対に乗車しないこと。』

酸やアルカリが金属の腐食を引き起こすことは一般的に知られていることだからなのかもしれないが、何十年か前の取扱説明書にはそこまで明確な警告は書かれていなかったように記憶している。(記憶違いでしたらごめんなさい。)

あくまでワタシの記憶なのであてにはならないが、同じように感じている古くからの自転車愛好家も少なくない。いずれにしても、酸やアルカリを使用したことによる遅れ破壊事故が増えていると考えてほぼ間違いはないだろう。

そう言えば、プレート表面がやけに傷んだチェーンを使っている人が増えたのがココ何年もずっと不思議だった。

ひょっとしたら巷で人気のアイテムが実は酸やアルカリなのではないか?

ネット界隈のレビューの多さから人気だし安心だろうと思い込み、特に疑うようなこともせず酸やアルカリの洗浄液を購入し、使ってはいけないものだとは知らないまま使っている可能性があるのではないか?

巷では評判が良かったはずの洗浄液を酸やアルカリだと知らずに使った結果、チェーンがすぐに傷んでしまったり破断して怪我をしてしまったりしたら、いたたまれない。

初めて買った自転車をとても気に入って、まめにお手入れをし大切にしている初心者サイクリストさんほど、もしかしたら破断落車大怪我...という事故に見舞われてしまうのかもしれない。

そんな悲しく悔しい事故を少しでも減らせたらという思いで、今回ブログにしてみた。

酸やアルカリを使うと化学変化が発生しチェーンはみるみる腐食し最悪亀裂が入る。そのことを少しでも多くのサイクリストに知ってほしい。

使用方法や頻度なども当然影響するだろうが、チェーンの洗浄に使用する洗浄液として売られているモノを使用したところなんかしらの化学変化が発生、チェーンの靭性が著しく低下しライド中知らぬ間にチェーンに無数のクラックが入る。

そのクラックに気が付かぬまま乗り続けるとチェーンは本当に破断する。ペダルを強く踏み込んだタイミングで既に発生しているクラックが運悪く破断した場合、とても大きな落車に繋がったりするのだ。本当にいたたまれない。

実際に沢山の亀裂が入り破断落車に繋がったチェーンの写真がこれだ。

実際にクラックが入ったチェーン

チェーンは非常に薄く小さなプレート同士をピンで繋いでいるパーツだ。酸やアルカリにより急速に化学変化が進行すれば、想像を超える速さで使用に耐えられないほど靭性が落ちてしまうに違いない。

一度や二度ではなく定期的に酸やアルカリで洗浄していたら繰り返し化学変化が発生し腐食がさらに進行するだろう。愛車をまめにメンテナンスをしているつもりが逆に傷めていた、なんてことになってしまう。

味噌汁の塩分で時間を掛けて鉄を腐らせればやがて脱獄できるくらい鉄格子を破壊できるみたいな、嘘みたいな話が本当におきている。

クラックが心配な方は今すぐここをチェックしよう

チェーンのどこが最も弱いか、想像してみよう。

薄いアウタープレートに圧入されているピン周辺で応力が常に発生しているので、靭性が低下したらピン周辺からクラックが入りやすいのは想像がつく。

さらにペダリングにより引っ張る力が加わり続けることを考えると、おそらくアウタープレートの進行方向前側のピン周辺にクラックが入りやすいはずだ。

また、スプロケットに擦れる側の表面処理のほうが摩耗は早いだろうから、バイク内側のアウタープレートの方が化学変化による靭性低下はより激しいに違いない。

そう考えると、酸やアルカリなどチェーンメーカーが使用を禁じているモノを使用してチェーンの洗浄を行っている(いた)場合は、アウタープレートの進行方向側のピン周辺、しかもバイク内側のアウタープレートに最もクラックが入りやすいように思う。

そこを中心にチェーン全体の入念な点検を強くお勧めする。分かりやすく?三郷店の最上画伯にイラストにしてもらった。腐食からの水素脆化によりクラックが最も入りやすい場所を絵で説明

ネットで購入したチェーン用ディグリーザーが酸かアルカリか不明の場合、念のため入念な点検を強くお勧めする。

表面がブチブチになっていても要注意だ

仮にクラックは見つからなかったとしても、こまめな洗浄と注油を行っているはずなのに、先ほどのクラックが入ったチェーン写真にようにやけにチェーン表面のメッキなどの処理がブチブチになっている場合、酸やアルカリにより表面処理が腐食・溶解してしまっているとを考えるのが妥当だろう。

毎日のように持ち込まれる何台もの自転車を点検していると、車体全体的にクリーニングが行き届いていてチェーンの洗浄も注油も怠ってはいなそうなのに、なぜかチェーンがこのようにボコボコぶちぶちになってしまっている自転車が思いのほか多い。

注油不足や雨ざらしによる錆がそういう状態にさせていると思っていたがどうも違うのだ。

気になってどんなモノを使っているかお話をうかがうと、たいていが「自転車用ってやつを買って使ってます。」と答える。「ここにあるやつですか?」と売り場を案内すると「そんなようなやつです。」と返ってくる。決して「それと同じものです。」と言う答えは返ってこない。

自転車用とうたわれているものの、専門店がおすすめしていない攻撃性の高いものを使っている可能性がある場合がほとんどだ。

この写真を見てほしい。

左が適切なクリーナーに二日間浸していたけど何も化学変化が起きなかったチェーン。右がアルカリ性のクリーナーに二日間浸して腐食してしまったチェーン。

この写真は、個人的に一番気に入っている洗浄液とネット購入した自転車チェーン用クリーナーを興味本位で比較した様子だ。どちらもあえて商品名は伏せておくが、ワタシのお気に入り洗浄液はもちろん当店でおすすめ販売している商品だ。

チェーン用として売られている2種類で実験してみた

左右どちらも新品の同じチェーンから切り分けたモノだ。浸してから30分ほどで右側のチェーンにはうっすらと変化が現れたのは正直驚いた。

写真左は個人的にお気に入りの洗浄液に丸2日間浸したチェーン

脱脂されたまま空気中に出してから3日程経過しているが、2日浸していても肉眼では腐食は確認できない。非イオン界面活性剤と脂肪族炭化水素溶剤の合わせ技だからなのか? 汚れ落ちは抜群だしここまで漬け込んでいても目にみえる腐食はないのは驚いた。ちなみにこちらも中性ではない。限りなく中性に近い弱アルカリ性だ。

推奨されている使用方法だが、吹きかけて1分待ってからブラッシングを始めトータル最大2-3分ですすぎにはいる。ぬめりがなくなるまでしっかりと水ですすすぎ、水分を完全に除去してから注油するという流れで使用するモノだ。

ローラー内部に水分が残っているとそこからサビていくので、当店で販売している水置換性高浸透性潤滑剤を使い金属表面から水分を離し丁寧に拭き取ってからの注油をお勧めする。

2日間浸していて液色にも変化は見受けられない。ちなみに水をかけると乳化して白くなる。

写真右は通販サイトで人気の某チェーン用クリーナーに浸したチェーン

写真上方のマットな灰色にみえる部分が2日間浸した場所だ。表面全体の質感が完全に変質または表面処理が完全になくなったように見受けられる。亜鉛ニッケルメッキが完全にハゲてしまったのだろうか。下側の汚らしいマダラ部分は一晩だけ浸した場所。元の質感がまだ残っている部分と激しく質感が変化している部分とが混在している。

ちなみに浸し始めて30分ほどで液面から顔を出している空気との境界部分のみ黒く変色してきたのにも驚いた。2時間でくっきりと線が出来上がった(下の写真 右のチェーン)。正確なことはわからないが、液と空気の両方に触れている部分だからなのか、完全に浸されている部分よりも腐食が進行しやすかったのかもしれない。

アルカリ性洗浄液に2時間ほど浸していたチェーン。液面に出ている部分が黒く変色し始めた。

ワタシには科学的にも電気化学的にも正確には何が起きているのかはわからないが、確実に変化が起きて消耗や変質をしていることは現象として確認できた。

結果を見比べてみて、自分は怪しいモノを使っているかも知れないと心配になった方は、専門店に足を運びチェーンを新品に換え、洗浄液を専門店がおすすめしているモノに変え、それらを使用した正しい洗浄方法の講習を受けるのがよいだろう。

さて、「酸やアルカリは使っちゃダメだよ、使うと危ないよ。」ということをここまでご紹介してきたが、同様に重要なこととして、『乗車前点検の必要性』と、『ネットで調べて得た情報の信頼性や信憑性を疑う癖を持つこと』についても続けて触れておきたい。

皆さんは乗車前点検をしているだろうか?

長年この仕事をしているが、お客様とお話しする中で感じているのは、乗車前点検を意識して行っている方はほとんどいないということだ。ライド中に危ない思いを経験しないと乗車前点検の重要性を認識しないのはむりもない気もするが。

ワタシはライド中に何度か想定外の出来事を経験し、乗車前点検の必要性をその度に実感してきた。自分のバイクの安全性は、行き着くところ「自分でチェックするしかない」と思うようになった。酸やアルカリをメンテナンスに使っていなくても、乗車前点検は絶対に必要なのだ。

適切な道具を使いどんなにマメにお手入れをしていようが、それこそショップでさっき整備をしたばかりだとしても、ご自身での乗車前点検は絶対に習慣にすべきだ。

自転車を構成するほぼ全てのパーツの取扱説明書に毎乗車前に必ず点検をしろと記載されてもいるが、取説に書かれているかどうかよりも重要なことがある。それは、そもそも自転車は『自分が自分の命を預け、自分で操縦する自分の持ち物』だからだ。

【飲酒運転』『無灯火運転』『ノーヘル』などと同じように、安全にライドを楽しみたいなら『ノー酸やアルカリ』が必須だろう。

定期的にショップを頼ることももちろん必要だが、乗車前点検をルーティンにしよう。毎度毎度の乗車前点検を通じて不具合や調子の変化、違和感に気がつく目を養っておいて損はない。

ワタシは経験があるが、ランチをしている間にバイクがイタズラされていることもあるし、駐輪場で知らぬ間に倒されていることもある。乗り出すタイミングでは自分しか頼れる人間はいないのだ。

皆さんは正しい情報を適切なソースから手に入れているだろうか?

機材の取扱説明書で使用を禁じられているようなメンテナンスケミカルが、普通に使用できると誰もが認識する品名で市販されていたり、爆安でコスパ最高だからおすすめとネットやSNSで紹介されていたりする。残念ながら今はそういう世の中だ。

ネットで検索して辿り着いた情報がそもそも正しいのか?信頼できる情報スジからの発信なのか? 常に疑ってかかる必要がある。なんでもかんでも鵜呑みにしてはいけないし、気安く信じてはいけないのだ。

🔍マークから検索して上位に表示されていたり再生回数や閲覧数が多い動画や記事が常に正しいとは限らない。通販サイトで一番売れている商品やレビュー数が多い商品も必ずしも自分のニーズを満たしてくれる商品とも限らないのだ。

ワタシは20年くらい前にアメリカのメカニック学校に留学した経験がある。カリキュラムの最後に100問の筆記試験と時間制限がギチギチの実技試験を受け、最も優れたメカニックとして認定を受けている。なので自転車の組み立てやメンテナンス、持ち込まれる自転車のトラブルシューティングにはそれなりに自信はある。

勉強もできる方ではなく化学にも疎いが、経験や勘よりも、取扱説明書が最も信頼できることを知っている。人様の自転車に手を加える人間はそうあらねばならないと教わった。車体やパーツ製造元のユーザーマニュアルやディーラーマニュアルが最も信用できる情報ソースなのだ。それがあってはじめて経験と勘が適切に活かされるということだ。

人気がある人の発信より、多くの人のやってみたより、多くの人の推奨より、たった一つの取扱説明書を真っ先にあてにしよう。

さてそんなワタシから、買って後悔しないケミカルかどうかをどのような視点で見極めたらよいかご紹介したいと思う。あくまでも個人的な意見として。それに、こんなワタシだから皆さんを唸らせるような判断基準は持っていない。結局そこかいッと突っ込まれるのも覚悟の上だ。

皆さんはケミカルをどう選んでいますか?

一つ目のおすすめの見極めポイントは、UCIプロチームが採用しているケミカルブランドかどうかだ。これは安全性や信頼性の面でかなりいい判断材料になる。

プロ選手は我々の想像をはるかに超えるパワーで長い距離を走っているし、よほどの天候でない限りライドを中止することもない。過酷な条件で競争に勝つために、安全で信頼できるケミカルを使用しているに違いない。

プロスポーツだからビジネス的な思惑も当然含んでのチーム公式採用ケミカルブランドだとは思うが、プロチームが契約しているブランドならば最も安心できるケミカルのうちの一つであることはほぼ間違いないだろう。どのチームも選手を命の危険にさらすわけにはいかない、そのプレッシャーは計り知れないだろうから。

二つ目のポイントは、製造元の従業員さんが実際にお店に足を運びスタッフに向けて製品の勉強会を開催してくれているかどうかだ。顔と名前を晒し会社の看板を背負いセールス行脚しているかどうかは信頼性にとても影響する。

汚れが落ちるか落ちないか、コスパがいいか悪いか、という薄っぺらな部分だけでなく、攻撃性の有無、なぜその工程に適しているのか(又は適していないのか)を材料の違いから説明してくれたりする。どんなつっこんだ質問にもわかりやすく丁寧に答えてくれる。もう一生ついていきたくなる。一般のユーザーさんを集めて講習会を開催していたりして、そんなブランドはもう神としか言いようがない。

UCIという華やかな世界では目立っていなかったとしても、勉強会を通じて感じる自社製品への裏付けのある自信や愛情、それに真摯さと実直さ、破壊力と説得力のある説明はとても信頼に値する。

三つ目最後のポイントは、対面接客スタイルの専門店で、しかも自転車愛が強く親身な従業員が接客に立ち、尚且つそんな個々の販売店店長や販売員に仕入れ権限がある、そんなセレクトショップのような自転車専門店で扱っているブランドかどうかだ。

そういうお店は、顔と名前を晒して直接お客様と対面して販売するという仕事の性質上、自らが信頼できる商品、お客様に安心してお勧めできる商品を明確な意思を持って品揃えしている。

そういうお店で働く人々は、お客様を裏切りたくない、お客様から「ありがとう相談してよかったよ」と言われたい、お客様から「勧められたモノを買ってとても満足しているよ」と言われたい、そういう純粋な欲にとても欲深い人が働いていることが多い。「嘘ついてでも、ヤバい部分は隠し通してでも、テキトーなこと言って売りつけてしまえ〜」なんていう心意気では長続きしないからだ。

そういうお店で相談し、おすすめされた商品を買い、講習会などでしっかりと正しい使い方を教えてもらうのが一番安心だ。そう、バイクプラスみたいなお店でw

お、お後がよろしいようで...。

でも最後にもう少し

販売ページに酸性かアルカリ性か明記されておらず、注意書きに『あのパーツ(チェーン同様ドライブトレインを構成するパーツ)には使用できません』『メッキ処理やアルマイト加工がされたパーツは変色する可能性があるから注意した方がいい』などと書かれている場合はそこそこしっかりアルカリ性だと思ってほぼ間違いないだろう。

そのような注意書きのあるチェーンクリーナーは、例え自転車チェーン用のクリーナーとして販売されていたとしても、メッキなどの表面処理がなされていることが当たり前のスポーツバイク用チェーンにはよくないのだ。シマノがユーザーマニュアルで警告している『使用すると亀裂が発生する恐れがあるタイプのクリーナー』と思って購入候補からは除外しておいた方が安心だ。

「シルテックはメッキではないから大丈夫か?」という疑問も出てくるかもしれないが、そもそもフッ素加工のフライパンをアルカリ性洗剤で洗うのは避けたほうがよいので、シルテックにもアルカリ性はヤバそうだという勘も働く。もちろん取説でシマノはチェーン洗浄に酸やアルカリの使用を禁じているのだから当然大丈夫ではないだろう。

ネットで売られているチェーンクリーナーで千円二千円節約できるからと言って、破断落車大怪我して何万円も何十万円もかかっては元も子もない。擦過傷や打撲、骨折はなかなか治らないしとにかく痛い。チェーン破断が起き落車して運悪く車に跳ねられ帰らぬ人となるのもゴメンだ。たかがチェーンの掃除だが化学変化の先に起きる出来事は授業料と割り切れるものでは決してないのだ。

どのケミカルを買うべきか迷った場合はぜひお近くのスポーツ自転車販売店に足を運んで相談して、おすすめされたアイテムを、おすすめされた使い方で使ってほしい。

実店舗にはワンクリックツークリックで完了するような便利さはないが、正しい情報を持った自転車メンテナンス方法に詳しい販売員と、そんな彼らによる選りすぐりの信頼できる商品達が揃っているはずだ。「チェーンが割れちゃってもたくさん売れればいいや...」なんて考えで接客に当たっている人間はどの自転車屋にもいないはずだから。

知らず知らずのうちに不適切なケミカルを購入してしまい、それを使ってお手入れをして大切な自転車を壊してしまったり、それが原因で怪我をしてしまったりする...そんなことがなくなることを願っている。