みなさまこんにちは!多摩センター店中村です!
唐突ですがみなさまのバイクには前の変速機がついていますか?実は付けないという選択肢もありまして、「フロントシングル」と言われています!
あまり知られていないそのフロントシングルと言う選択肢について今回はお話しようと思います♪
今回はオフロードカテゴリで人気のフロントシングルですが、ロードバイクに焦点を絞ってご案内します。
フロントシングルとは?
フロントダブルの変速機
フロントシングルとは、その名の通り前(フロント)のギア板が一枚(シングル)の構成になっているもので、前の変速機(フロントディレイラー)がついてギアの歯が2枚ないし3枚付いているものを「フロントダブル」、「フロントトリプル」といいます。
フロントディレイラーが無くスッキリした見た目
前のギアが1枚なので、前の変速機と前の変速機を動かす変速レバーが不要になり、全体的にすっきりとした見た目になります。
フロントシングルのマウンテンバイク
マウンテンバイクやシクロクロスなどのオフロードカテゴリのスポーツバイクでは昨今は主流となり、TREKのオフロードバイクはほとんどがフロントシングルになっています。
そのオフロードで人気のフロントシングルですが、実はロードバイクやグラベルロードにも有効な場面があり、使用シーン次第では採用する価値のあるものになっています。
かく言う筆者はフロントシングル愛好家で、私物バイクのほとんどがフロントシングルになっています(笑)
そんなフロントシングルの魅力と導入する目安、好き好みがはっきり分かれるメリット、デメリットなどをご紹介していきます!
ギアのお話
まずはじめに様々な話をする前に、軽く自転車のギアについてのお話をさせてください。
・ギアの歯の数をTと表記します。仮に歯数が50の場合50Tと表記します。ギアの歯数の関係ですが、フロントのギアの場合数字が大きいほど重く、リアの歯数は小さいほど重いです。
・前のギアと後ろのギアの歯数の組み合わせでギアの重さが変わりますが、計算としては(フロントのギア歯数÷リアのギア歯数=ギアの重さ)になります。
・このギアの重さをギア比と呼び、数字が大きいほどペダルが重くなります。具体的にはこのギア比はペダル一回転で車輪が何回転しているかを表し、仮に50Tのフロントギア、28Tのリアギアの組み合わせの場合、ギア比が1.79になり、ペダル1回転で車輪が1.79回転します。
・仮にエモンダSL5DISCについてくるギアを例に挙げると、一番重いギアがフロント50T、リア11Tになるのでギア比は4.55になり、一番軽いギアはフロント34T、リア28T なのでギア比は1.21となります。ザックリ自転車のギア比は軽い方から重い方へ1~5ぐらいの範囲になっています。
フロントシングルのメリット
そんなフロントシングルにはメリット、デメリットがそれぞれに存在し、それぞれ特徴があり好みもはっきりと分かれます。
はじめにフロントシングルにすることで得られるメリットをご紹介します。
フロントディレイラーのトラブルが無くなる
フロントディレイラーが付いていなくてスッキリした見た目
フロントシングルにすることで、そもそもフロント変速をするフロントディレイラーの役割が無くなり、フロントディレイラー自体を取り外すので、変速機とチェーンがすったり、変速しなかったりなどのフロントディレイラーがらみのトラブルが一切無くなります。
マウンテンバイクなどでは激しいライド中にフロントを変速によってチェーン落ちしたりするトラブルがよく起きるので、そういった理由からフロントシングルは一気に浸透しました。
チェーン落ちが少なくなる
チェーン落ちしたドライブ周り
変速機の宿命ともいえる事ですが、皆様チェーン落ちは体験したことはありますか?
変速のタイミングや振動など外的要因でチェーンが外れてしまうことがあります。
対処法を知らないとその場で走行不能になる厄介なもので、そのためにもバイクプラスの納車時の説明にしっかりと「チェーンが脱落した際の戻し方」と言う項目があます。
±の形をした特殊な歯先形状
フロントシングルの場合チェーンリングの歯が+-状の特殊な形状になっていて、チェーンをしっかり支えてくれるのでチェーン落ちのリスクを減らすることができます。この形状はフロント変速機を使うタイプのチェーンリングには無く、フロントシングルならではの特徴になります。
実例として筆者が試しに通常の形状のチェーンリングをフロントシングルで運用した時、チェーン落ちが頻発し、何ならフロントディレイラーが支えにならないのでフロントダブルの時よりチェーン落ちが起きましたが、同じ歯数のフロントシングル専用チェーンリングに変えただけで、ピタッとチェーン落ちが無くなりました。(落ちたことは無いですが、構造上落ちる時は落ちます)
ダンパーが付いていてチェーンのあばれを抑えるリアディレイラー
メーカーにもよりますが、フロントシングル専用のばねの強いものやダンパーが付いている、リアディレイラーの展開もあり、組み合わせると更にチェーン落ちに有効に働きます。
変速の迷いが無くなる
仮にフロント変速2段、リア変速11段の車体があるとして、ギアの組み合わせは合計22パターンあり、変速機を動かすパターンはフロント変速の上げ下げ、リア変速の上げ下げの4パターンあります。すべてを使いこなせればとても強い味方ですが、実際使わないギアもあったり、坂道を登ってる最中などの走行シーン次第ではフロント変速できない場合もあります。
フロントシングルの場合フロント1段、リア11段の場合、ギアの組み合わせはシンプルに11段で、実際使えるギアは少なくなりますが、変速機を動かすパターンは上げるか下げるかの2通りしかないのでとても直感的です。
マウンテンバイクなどでトレイルライドをしているときに、フロント変速する余裕がないシーンが多く直感的なのが人気の秘訣です。
クリーニングやメンテナンスが楽になる
ブラシが入るのでクリーニングが楽ちん♪
若干メカニック目線が入りますが、フロントの変速機が無いことで、変速調整や車体のクリーニングが大幅に楽になります(笑)
フロントの変速機と、ギアの歯が1枚なので、クリーニングをするときに掃除用のブラシやタオルが入るスペースがあり、分解せずに細かいところまで掃除を容易に行えるようになります。
個人で行うクリーニングのできる幅が広がるので愛車をより長持ちさせることも可能です。
車体の変速に関しては、変速やブレーキワイヤがフレームの中に内装されていることの多い昨今の自転車において、内部で変速ワイヤが絡んだりするリスクも無くトラブルフリーで作業も容易なのでグッドです。
車体重量を抑える事ができる
ペダル、ボトルケージ込みの重量
フロントシングルの場合、車体から、フロントディレイラー、フロント変速レバー、ギア板(チェーンリング)1枚、フロントシフトケーブル、チェーン数コマを取り除くので各パーツ分の軽量化が可能になります。
ヒルクライム用の自転車、軽量化フリークの方などで、限界まで重量を切り詰める際には選択肢に入ってきます。
車体破損のリスク低減
チェーン落ちの後巻き込んで破損したチェーンステイのカットサンプル
チェーン落ちや、変速ミスによるチェーンの巻き込みで車体破損のリスクを下げる事ができます。
落車などでフレームを破損させてしまうこともありますが、実はフレーム破損のケースとして年間数件ぐらいは、フロント変速やチェーン周りのトラブルが原因でフレームを破損させることがあります。
ケースとして、坂の上りで負荷が大きい状態でフロントギアを軽いギアに入れた時に勢いよくチェーンが落ち、ギア板とフレームにチェーンが挟まったままペダルをこいでフレームにひびが入った例がありました。
フロントシングルのデメリット
メリットだけを見ると素晴らしいものに見えるフロントシングルですが、なぜ多くの自転車がフロントダブルを採用しているか・・・
デメリットもそれなりにあり、そのデメリットが用途によっては致命的だったりするからです。
逆説的ですが用途次第では全く問題ない場合もあるので後の項目のフロントシングルを採用する目安を参照してみて下さい。
選べるギア比に制約が出る
この項目が一番でかいデメリットです。
純粋にフロントダブル11速の車体の場合、変速段数が22速からシングルに変えると11速になるので選べるギアの数が大幅に減ります。
使うギアの歯数によって大きく状況が変わりますが、ロードバイクによく標準で付いているギアが、フロントダブルの場合アウター50T、インナー34Tがついてくることが多く、リアのギアは11~28Tのギアが付いてくることが多いです。リアのギアは例外もありますが構造上10~12Tが一番重いギアになります。
仮にフロントシングルで50Tを使った場合、実質アウターギア縛りになるので軽いギアの選択肢が減るため坂道がすごくしんどいことになります。
逆もしかりで、34Tのフロントシングルにした場合、重いギアが使えないので最高速がすぐに頭打ちになります。
その状況を打破するためには、後ろのギアをより幅広く使えるように標準のギアより幅広く対応できる11-34Tや、変速機の制約はありますが11-42などのより幅広いギア比を選べる後ろのギアに変更するのがベターです。しかしそこにも問題があり、下の項目で説明します。
ギア変速時の重さの差が大きい
上記のデメリットを解消した場合使えるギア比の問題はある程度解消されるが、新たな問題も発生します。
ギアの変速段数は最近だと11速前後のものが多く、軽いギアの歯数を多くした際に、ギアの一番重いギアと、変速段数自体は変わらないので、一段変速するごとの差が大きく細かな変速調整ができないというデメリットも出てきます。
場合によっては重くなる
メリットの項目で、軽くなると明記しましたが、場合によっては重くなる場合があり、これも上記の項目に連動する話で、 例としてシマノ105グレードの11-28Tのリアのギアの重さが284gになり、同一グレードの11-34Tの場合379gと約100gほどの重量増になり、パーツの組み合わせ次第ではフロントシングルとダブルであまり重量が変わらなかったり重くなったりする場合もあります。
リアの変速段数によってはパーツが少ない
フロントシングル用のパーツは10~12速対応のものが多く、7~9速の車体をフロントシングル化する場合、駆動系のパーツや変速機をマルっと交換する場合がある。
フロントシングルを採用する目安
右はダブル50-34T、左はシングル36T
そんなメリットデメリットがあるフロントシングルですが、どのような人やシーンだと使い勝手がよく、どのような人やシーンだと使い勝手が悪いかを例を交えてご説明していきます。
普段使用するギアの見直し
フロントダブルで普段どのギアの組み合わせを使いますか?振り返ってみると意外な発見があるかもしれません。
普段使うギアで一番軽い組み合わせと、重い組み合わせを振り返ってみてください。 使っていないギアがあったらフロントシングルの選択肢が出てくる、もしくは使用するギアの歯数変更など、走りに無駄が少なくなって楽に走れるかもしれません。
ゆったりロングライドとヒルクライムを楽しむAさんの例
箱根峠を登るチェックポイント
仮にフロントダブルのフロントギア50-34T、リアギア11-30のギア構成の22速のグラベルロード(チェックポイントSL)に乗ってロングライドとヒルクライムを楽しむAさんがいたとしましょう。
ヒルクライムでは34Tのフロントギアとリア30Tの一番軽い組み合わせまで使いますが、ロングライド平地ではあまり重いギアを踏まずにフロントギア50T、リアギアは14Tまでしか使いませんでした。
この例をギア比で換算するとAさんは1.13~3.57の間のギア比があれば足りる計算になります。変速段数で換算すると、アルテグラの11-30のリアギアを使っていた場合、11.12.13Tのギアを使用していないので実質19速になります。
更にアウターギアとインナーギアの組み合わせで重さが被っている部分があるので、連続して使える変速数は実質13速分しか使えません。
ここで出てくるのがフロントシングルの選択肢で、実はフロントギア40T、リアギア11-36Tの組み合わせでギア比が1.11~3.63になり、上記の例であればすべてのギア比を網羅することができます。
この例ではガシガシ重いギアを普段からあまり使わなくて、使わないギアがある場合に有効な例で、ロングライドであまり高出力を出さない方や通勤ライドのかたにオススメです!
用途に特化した選択
フロントシングルのエモンダSLR
特定の用途に特化した車体の場合フロントシングルが有効に働くシーンがあります。
ヒルクライムで1gでも車体を軽量化したいBさん、平地しか走らないCさんの例
ヒルクライムレースや普段のトレーニングでガンガン山を走るBさん、普段山ではアウターギアを使うことも無く、山までの道中は軽く流しで走るか、輪行でアクセスします。
そんなBさんのロードバイク(エモンダSLR)のギア構成はフロントダブルの52T-36T、リアギアは11-32のヒルクライム仕様!
普段アウターギアの52Tを使用しないので実質フロントダブルでも11速しか使っていないので、思い切ってフロントギアを36Tのシングルにしても大きな影響はありません。
フロントディレイラー、アウターチェーンリング、フロントシフトケーブル、チェーン数コマ分の軽量化ができ、グレードにもよりますが外したパーツで200g前後の軽量化になります。
逆に平地しか走らなくて、インナーギアを使ったことが無いCさんにも同じことが言えて、使わないインナーギアを取り外した分軽量化とトラブル防止のメリットを受ける事ができます。
様々なシーンに照らし合わせるとフロントダブルの方が融通が利くが、特定の用途や走り方の好みによってはフロントシングルにしても影響がないケースもあります。
このケースの場合リアのギアはそのままなので、重量増のデメリットや、ギア変速時の重さの差も従来通りなので、ノーリスクでフロントシングルの恩恵を受けられます。
フロントシングルが向かないシーン
軽いギアから重いギアまでをまんべんなく使い、ギア比の幅を広く使う方にはフロントシングルは向かないです。
具体的にはレースなどで重いギアをしっかり踏んで、コースの中の激坂対策で軽いギアも使い、状況に合わせてこまめに変速するシーンなどが想定される場合は特に、ギア比の制約や変速ごとの重さの変わり方などのデメリットが目立ちます。
レース機材としては、ヒルクライムやタイムトライアルなどでは選択肢に入る場合もありますが、フロントダブルの方が圧倒的に有利です。
ただ、2020年のアルカンシエル、トレックセガフレードのマッズペデルセン選手などは、石畳のクラシックレースなどでチェーン落ちなどのトラブルを避けるためフロントシングルを使用していて、今後増えていくのかも知れません。
フロントシングルの実用例
ゆったりとしたロングライド、ヒルクライムなどを使用目的としたフロントシングル
フロントシングルのチェックポイントSL5
ゆったりとロングライド、ヒルクライムを使用目的としたチェックポイントSL
40Tのフロントシングル
シマノのグラベルコンポ「GRX・RX810」シリーズでパーツを固め、使用ギアはフロント40T、リア11-42と幅広いギア比をカバーし様々な道に対応できるようにカスタム
11-42Tの大型スプロケット
ギア比は軽い方から0.95~3.63まで対応し、様々な道に対応したマルチな構成です。
ヒルクライム特化の軽量化目的のフロントシングル
フロントシングルのヒルクライムマシン
用途をヒルクライムに絞ったエモンダSLR スラムの軽量コンポ「レッド22」をベースにスラムのフロントシングルコンポ「フォース1」の左レバーとクランクをミックスしてフロントシングルに対応
フロント34T、リア11ー28T
リアのギア構成は11-28で、ギア比は軽い方から1.21~3.09と平地は流して峠で本領を発揮する構成です。
スラムやレースフェイスはフロントシングルパーツが豊富
フロントのチェーンリングは34Tで、レースフェイスのスラムダイレクトマウント規格のシングルチェーンリングを使用しています。
グラベル走行も視野に入れたフロントシングル
フロントシングル仕様のドマーネSLR
グラベル走行も視野に入れて、軽めのギア構成のドマーネSLR
12速でよりフロントシングルのメリットが出てくる。
スラムの最新電動コンポ「フォースeタップAXS」をベースにしたフロントシングル12速を装備
フロント36T、リア10-33T
ギア構成はフロントは36T、リア10-33で、ギア比は軽い方から1.09~3.6になっていて、スラムeタップAXSのトップギア10Tの展開と12速を有効に使っている例
最後に
フロントシングルのお話はいかがでしょうか?普段使用するギアの組み合わせをいったん見直してみるとステップアップのヒントがあるかもしれませんね?
バイクプラスではギア比の見直しなどもお手伝いできますので、分からないことがありましたらスタッフまでご相談ください♪