自転車ヘルメット:値段が変わると何が変わる?

自転車乗車時のヘルメット着用が努力義務となって、安全意識の高まりと普及が進むことが一層期待されます。

ヘルメットの需要が伸びると、ニューモデルが投入されたり、色数が増えたりして市場にはたくさんの選択肢が生まれるので、自らの意思でヘルメットをかぶってきた安全意識の高いライダーにとっては、また物欲が刺激されるきっかけになるかもしれません。

一方、はじめて購入される方の多くは、ヘルメットに何万円も出す感覚は理解し難く、定期的に買い替えが必要なら尚更、低価格ヘルメットで充分、と思ったりするのではないでしょうか。

そこで気になるのが、ヘルメットの価格差は何の差なのか?ということ。この記事では安いヘルメットと、高いヘルメットの差についてご紹介します。

ヘルメットに求められる基本機能

自転車乗用ヘルメットは、頭部を路面などに打ち付けることによる傷害のリスクを軽減する目的でかぶります。そのためには最低限、以下の3つの機能が必要です。

  • 衝撃を吸収
  • 衝撃を分散
  • 直接的な接触を回避

この最低限の機能を最大限追求すると、多分こんな感じになります。

最低限の機能を最大限追求したヘルメット

自転車ヘルメットならではの追加機能

でも、自転車に乗るなら風を感じたいし、熱いのは困るし、重いと肩が凝るし、広い視野を確保しなければいけないし、フィット感も重視したいし、デカイのは空気抵抗も大きいし、"最低限"の安全性じゃ足りないし、何よりダサいのは嫌!ってなりません?

 そうすると、こんな感じになってきます。

自転車乗りの要求を全て盛り込んだヘルメット

 追加機能をまとめると以下のようになります。

  • 通気性
  • 軽量性
  • 視界の広さ
  • フィット感
  • 脱げにくさ
  • 快適性
  • デザイン性
  • エアロ性能
  • プラスアルファの安全性(MIPS、WAVECEL等。詳しくは後述。)

当たり前だと思っていた機能も、こうして書き出してみると沢山ありますね。

安いヘルメットは安全じゃないの?(価格と安全性)

万が一の転倒や事故の際に、頭部へのダメージを防ぐのがヘルメットに求められる第一の機能。値段の差が安全性の差なら、安いヘルメットをかぶるメリットはありませんよね。

自転車用ヘルメットの安全性に関しては、世界中に様々な規格や安全基準があり、それらに適合したものであれば、価格にかかわらず最低限の安全性は確保できると考えられます。さらに、追加機能として前述した「視界の広さ」や「脱げにくさ」といったポイントも、ほとんどの規格に検査項目として含まれています。

ただ、実際にはこういった規格や安全基準がテクノロジーの最先端とは言い切れず、もっと上の安全を追求した製品が、すでに存在していることも知っておくべきでしょう。

また、最低限の安全基準すら満たさない粗悪品でも、流通(輸入や販売)を規制する実効的な仕組みはないので、お求めの際には注意が必要です。

いざと言う時にヘルメットが正しく機能するためには、フィット感も重要なので、自転車専門店の店頭でアドバイスを受けながら試着して選ぶのが安心です。

ヘルメットって蒸れるんでしょ?(価格と通気性・エアロ性能)

自転車は風を感じながら乗れるのが魅力の一つ。ヘルメットをかぶったら、そんな楽しみが損なわれてしまう、と思っている方も少なくありません。特に、穴のない通学用ヘルメットを強制されていた方は、ヘルメットに悪いイメージしかないかもしれません。

でも、そこは安心してください。

スポーツバイク用のヘルメットには通気孔が数多く設けられており、風が中を通ることで頭の蒸れや熱を放出します。頭部に熱がこもるとパフォーマンスも低下するので、通気性は各社かなり力を入れているポイントです。

ヘルメットの中に効率的に風を取り込むためには、通気孔の大きさ、向き、数、位置や、風の通り道を計算して配置する必要があります。走る速度域によっても風の流れは変わるので、ライディングスタイルに適したモデルを選びましょう。

ロードバイク乗りに人気のエアロ系ロードヘルメットは、空気抵抗を抑えるために、通気孔の数を減らしています。高い速度域ではヘルメット後部から、中の熱を引き出すような空気の流れができるよう計算されていますが、低速時には真上に抜ける穴がないので暑く感じられるかもしれません。

通気性の差は、価格の差となって現れます。以下のような理由があるからです。

  • 開発費
    目に見えない風の流れを設計に盛り込むためには、CFD(流体シミュレーション)や風洞実験が有効です。専門人材の確保、設備投資や実験設備の使用料など、開発にはお金がかかります。
  • 材料費
    自転車用ヘルメットは、ざっくり言うと外側のプラスチックと内側の発泡スチロールでできています。大きな通気孔をたくさん配置したり、風が通る溝を深く掘ったりする場合は、補強が必要です。通気性のレベルに応じて、補強なし→プラスチック補強→カーボン補強といった具合に、少ない量で強度を確保できる高価な素材へとレベルアップするため、価格は高くなっていきます。
  • 金型代
    通気性が良いヘルメットは内側、外側ともに複雑な形をしています。通気孔が真正面や真後ろを向いていることもあり、上下でポン!みたいな単純な金型では成型できません。通気孔ひとつひとつに相当するブロック状に分割された金型ピースをはめ込み、発泡成型後に手作業でピースを取り除いています。
  • 人件費
    金型の複雑さに加えて、シェル(外殻)や補強材も金型内に配置してからの発泡成型となるため手作業の割合が多く、量産品としては信じられないほど生産効率が悪いんです。ヘルメットは高性能になる程、工程数が増えてしまいます。

価格帯で通気性の良さもある程度は占うことができますが、とっておきの「通気性の良いヘルメットの見分け方」もご紹介しておきましょう。通気孔の数や大きさは一つの目安になりますが、外観からはデザインにごまかされて見えにくいこともあります。大事なのは頭が収まる内側です。内側から見ると、通気孔の本当の大きさ、風が抜ける溝の幅や深さが一目瞭然です。

ヘルメットの内側、外側

かぶった状態で鏡をみて、前から後ろに向けて見通せる穴がどれだけあるか、というのも通気性を見抜くポイントになります。

通気性に優れたVelocis MIPS

お求めやすい価格のSolstice

同じサイズ表記ならどれでも合う?(価格とフィット感・快適性)

自転車用のヘルメットは、ブカブカでいざと言う時に脱げてしまっては意味がありません。逆に、きつくて痛かったり、きちんと頭を覆ってくれないのも困ります。まずは適正サイズを選ぶことが重要です。ここで言う適正サイズとは、「かぶれるヘルメットのうち、最も隙間の小さいもの」のことです。

ヘルメットのサイズ選びは、靴のサイズ選びに似ています。

靴なら、幅が狭い、甲が低い、かかとが浮くといった場合は他のサイズを試すか、他のモデルを選びますよね。実測24.5cmの足に29cmの靴を選んで靴紐でなんとかしようという人もいませんよね。ヘルメットも同じであるべきです。

低価格帯のヘルメットは、ワンサイズしかないことが多いです。ここにピンポイントでフィットする頭の持ち主ならばラッキー!ちょっとの差なら、調整機構で合わせられるかもしれません。

合わなくても諦めず、他のモデルをお試しください。上位モデルなら複数のサイズ展開となり、ジャストフィットが得易くなります。より繊細な調整ができるようになり、サイズだけではなく、かぶりの深さも合わせることができます。

boa adjuster

エントリーモデルでは、後ろから締め込んで、発泡スチロールに前頭部を押し付けるような調整機構が多いですが、上位モデルの多くは、おでこ側も調整機構の一部になっており、長時間の着用でも快適です。

OGKカブトなど日本のブランドや、アジアンフィットモデルを展開する海外ブランドであれば、頭を上から見た時の縦横比が欧米人とは異なる、日本人的な頭にも合いやすいモデルが見つかるはずです。最近では入門モデルにも多く採用されるようになっているので、納得の行くフィット感を探しましょう。

同じメーカーの同じサイズなら、基本的には同じ頭型をベースに設計しています。ただ、ヘルメット内側の穴や溝の配置次第で、当たったり当たらなかったりと、頭の感覚は意外なほど敏感です。穴が小さく、溝が浅いエントリーモデルではゴツゴツしていたのが、上位モデルにしたら当たっていた箇所が肉抜きされて、快適だったというのはよくある話です。

あそびが少なく、快適なフィット感を持つヘルメットは、不思議とかぶっていて軽く感じるものです。実際の重量も大事ですが、カタログスペックだけでは分からないこともあるんですよ!

ちなみに、軽さと価格も関係が深いです。ヘルメットを軽く作るためには、材料を減らしたり、材料の密度を抑えたりする必要があり、そのままでは強度が心配になります。通気性のところと共通する内容も多いのですが、軽くするために様々な工夫が凝らされていて、それが価格に反映されます。ストラップを保水しにくい素材にしたり、薄くて軽い留め具を使うのも、その一環です。肌に触れるような部品がしなやかになったり小さくなったりすると、かぶり心地も向上するので一石二鳥です。

最後にもう一点。汗を吸収する内側のパッドや、肌に触れるストラップに抗菌・防臭などの機能素材を用いているヘルメットもあります。こうしたモデルなら自分の快適性はもちろん、周囲の快適性にも貢献できますね。

プラスアルファの安全性(MIPS・WAVECEL等)

どの国家規格でも、適合していれば安全性そのものに大きな差は認められない、という話は前述しました。ところが、ヘルメットの着用率が上がっても自転車事故による死亡者数は一定以上減少しないという研究結果もあるようです。

それは、ヘルメットの有効性が現行の規格では十分に評価できていないことの裏返しである、と言えるのかもしれません。

近年の研究で、実際の事故で頭部(特に脳)がダメージを受けるメカニズムが解明されてきました。その一つが、鉛直方向以外の衝撃を受ける時に発生する、頭部の回転による脳へのダメージです(顎にパンチを受けたボクサーを想像してください。頭がカクンと回転し、脳が揺さぶられます)。

現行の規格では、どれもヘルメットを一定の高さから自由落下させ、アンビル(直訳は"かなどこ"。ヘルメットをぶつける金属製の台)にまっすぐ当てた時の衝撃の大きさを測定していますが、自転車が前進するスピードだけをとっても、実際にはそんなに都合よく直角にぶつかりません。むしろ、ほとんど直角以外にしか当たらないと言っても過言ではないでしょう。

 MIPSやWAVECELといった安全機構のテストでは、路面へ斜めに衝突するのを再現するため、斜めのアンビルに垂直に落下させます。ぶつかった瞬間からヘルメットはその斜面を転がろうとしますが、その転がる力が直接脳に伝わると、脳震盪を起こすので、MIPSやWAVECELはヘルメットと頭の間に"滑り"を生じさせて、ヘルメットに加わる回転の力を頭に伝えないようにします。

wavecell

これら新たに開発された安全のための機能は、残念ながら現行の安全基準が求める試験方法では優位性が確認できません。せっかく実際の事故に即した衝撃吸収能力を持たせているのに、最低限の基準をクリアしたものと同等の"安全性"としか評価されず、価格差も理解してもらいにくいのです(最近は低価格帯にも採用されるようになってきたので、必ずしも高い=安全とは言えませんが、これは歓迎すべき事ですよね)。

最新のスフェリカルMIPS採用のヘルメットは、2つのヘルメットを重ね合わせたようなつくりになっているので、値段が2倍でも納得です。

 

 

スフェリカルMIPS採用のGIROの最上位ヘルメット
→https://bike-plus.com/products/giro-eclipse-spherical-asia-fit-helmet

ちなみに脳震盪という言葉に含まれる症状の多くは軽いもの(ボクサーがダウンするなど)で、重篤なイメージがないかもしれませんが、死亡や永久に機能障害を負うような脳震盪もありますので、甘く見てはいけません。

自転車ヘルメットの安全規格

"様々な規格がある"という話をしたので、いくつか具体的にご紹介しましょう。(厳密には、安全規格ではないものもご紹介しています。)

  • CPSC(6 CFR Part 1203)
    CPSC(アメリカ合衆国消費者製品安全委員会)が定める規格。米国で販売されるヘルメットは全て、この規格に準拠していることが法的に求められる。
  • CE(EN1078、EN1080=子供用)
    CEN(欧州標準化委員会)加盟国で採用する規格。日本のJIS規格に近いため、日本に輸入される海外製ヘルメットは、メーカーの本拠地に関わらずCE仕様であることが多い。
  • JIS(T8134)
    日本産業規格。ヘルメット本体の試験方法や合格基準の他、表示、取扱説明書の記載項目が定められている。
  • JCF
    公益財団法人日本自転車競技連盟(JCF)が主管する競技で、使用を認められる"公認ヘルメット"(白のステッカー)の基準。よく似た"JCF承認ヘルメット"(緑のステッカー)はJCFレースに使用できない。JCF競技規則と併せて公認基準としている。
  • SG
    一般財団法人製品安全協会が定める基準。適合品にはSGマークが表示される。

 たくさんの規格があって「どれが安心なんだろう?」と気になるかもしれませんが、実は、どれも試験項目自体には決定的な差がありません。

頭部模型にヘルメットをかぶせ、一定の高さから落として金属アンビルに衝突させる「落下衝撃テスト」、あごひもが伸びたり外れたりしないことを確認する「保持装置強度テスト」、ぶつかった拍子に脱げてしまわないことを確認する「ロールオフテスト」は、ヘルメットの最低限の安全性を確認する上で不可欠な試験で、すべての規格(EN-1080は例外)に共通しておこなわれています。

注意!:EN-1080は、子供が自転車用ヘルメットをかぶったまま遊び、遊具にヘルメットが引っかかってあごひもで窒息する事故が起きたことを受けて設定された規格で、一定以上の力が加わった時にあごひもが外れることが求められます。欧州規格なので、日本国内に流通する子供用ヘルメットには、このような機能は備わっていないと考えるべきで、自転車乗車時以外のヘルメット着用は却って危険を招く恐れがあります。

落下衝撃テストに関しては、様々な気象条件下で正常に機能することを確認するため、高温、低温、浸せき(水びたし)の状態でもテストがおこなわれます。

各国の落下衝撃テストで、使う頭部模型の質量、落下エネルギーの大きさ(落とす高さ)、アンビルの形状(平面、半球、縁石型など)、衝撃を加える位置、衝撃の合格基準値に微妙な違いがあります。試験方法の差はありますが、実際の事故に際して、どれかの規格適合品がより安全であると示す証拠はなく、一般的には安全性の差はないと認識されています。

様々な用途のヘルメット評価研究を行っているバージニア工科大学(Virginia Tech)の試験では、斜めのアンビルに衝突させるテストが採用されており、MIPSやWAVECELなど、回転エネルギーを逃す機構を持つヘルメットが高い評価を受ける傾向にあります。テストした市販ヘルメット(いずれも通常の安全基準に適合)を独自の基準で再評価し、ランキングまで公表していますので、参考にしてみるのも良いでしょう。

Virginia Techのヘルメット評価はこちら(外部サイト)→https://www.helmet.beam.vt.edu/bicycle-helmet-ratings.html#!

すべての安全基準に適合するヘルメットが一番良い?

あまり知られていませんが、世界中で販売されるような大手メーカーでは、同じモデル名でも、販売する国の規格に合わせて複数のバージョンを用意しています。特定のテストをクリアするために、ヘルメットの形状や素材を調整するので、見た目が微妙に違ったり、製品重量に差があったりします。

一つのヘルメットであらゆる規格に適合するように作ると、必要以上に重たいものになってしまいます。前傾姿勢で乗るスポーツバイクでは特に、軽いことで首の負担を軽減する効果があるので、仕向地に合わせて複数の仕様を用意することは、ユーザーにとっても大きなメリットになります。

また、かぶりたいと思う人は少ないと思いますが、防災用や工事現場用のヘルメットは、落下物に対する頭部の保護を目的としているため、想定される衝撃とそれに対するテスト方法が異なります。用途の異なるヘルメットを自転車用に代用することはやめましょう。

努力義務化、義務化には様々な議論がありますが…

かぶらないよりは絶対良いはず。ただ、残念ながらヘルメットは万能ではありません。事故を未然に防ぐ効果はありませんし、かぶっていても助からないこともあるので、まずは安全運転が何より大事です。

法令の周知・遵守の徹底、自転車に優しいインフラ整備など、安全のための課題が山積みなのは確かです。ただ、明日にも100%達成できる課題ではないことも明白ですし、その間、ヘルメット着用によって少しでもリスクを軽減しようというのは、とても意義のあることだと思います。どこまで行っても事故や転倒はゼロにはならないので、今からヘルメット着用を習慣化しておいても損はないでしょう。

「着用に努めるのが義務なら、しょうがないから最低限のものを買っておこう」というのも、消極的ですが安全のためには大きな前進です。でも、ここであえて「安物ヘルメットで死んだら、成仏できないから、かぶるならちゃんとしたものを買う」という考え方もご紹介しておきます。

「罰則がない法律は守らなくて良い」とか「努力義務だから着用は個人の自由」という認識は明らかな間違いです(そう誤認させる報道も多く見られましたが)。道路交通法の条文をそのまま貼っておきますので、読んでみてください。

(自転車の運転者等の遵守事項)
第六十三条の十一 自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない。
 自転車の運転者は、他人を当該自転車に乗車させるときは、当該他人に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。
 児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児が自転車を運転するときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。

ヘルメットは死んでもかぶりたくない!という方へ

本題からは外れますが、自転車の楽しみを幅広く提案するバイクプラスの一員として、これだけは何回でも言わせてください(今回はいつもより厳しく、ちょっと違う視点から攻めます)。

自転車に乗る時は、ヘルメットをかぶりましょう!

かぶりたくないという人は、髪型が崩れるくらいなら、脳や頭蓋骨が崩れるほうがマシ…ってことなんでしょう。本人の覚悟は認めるけど、正直、迷惑です。

事故を起こした時、相手が怪我で済んだか死んだかでは、加害者側の負担が全然違います。「死ぬのは自分」では済みません。

ヘルメットをかぶって死ぬのと、ヘルメットをかぶらずに死ぬのでは、遺される人の後悔も違ってきます。「ヘルメットをかぶらせればよかった」と思い続けることになりますから。