OCLVカーボンフレーム製造工場見学レポート 宇宙航空産業の基準を超える品質

2013年3月5日by miyazakisayaka
TREKの販売店でも訪れた経験があるひとは少ないTREK OCLVカーボンフレーム製造工場見学レポート(page1/3)。

はじめに

自転車界では知らない人はいないほどですが、まだまだ世間では知らない人も多い自転車ブランド『TREK(トレック)』は、実は世界シェアナンバーワン。そんなトレックのU.S.A.本社と工場を訪問しました。OCLVカーボンフレームの製造過程を実際にこの目で見てきたこと、聞いてきたことを早速レポートします! 今回はなんと本社や工場の見学だけでなく、トレック U.S.A.社長ジョン・バーク氏をはじめ、開発にかかわるエンジニアの方々から目からウロコなお話も聞くことができました。OCLVカーボン製法など常に時代をリードしてきた革新的なテクノロジーを生みだす人々、そしてカーボンバイクが作られる現場をリポートします。
ウィスコンシン州ウォータールーに今もあるトレック創業当時の本社工場 ウィスコンシン州ウォータールーに今もあるトレック創業当時の本社工場

創業者の故ディック・バーク氏が若い頃息子に語った夢

1976年オイルショック真っ只中、自転車が人々の交通の足として重要な役割を担う乗り物として注目されていた頃、TREKの創始者である故ディック・バーク氏はウィスコンシン州ウォータールーのこの小さな赤い倉庫で従業員5名で自転車造りを開始しました。その当時の思い出について、息子であり現在の代表であるジョン・バーク社長は以下のように語っていました。
父はドライブが好きだった。私をのせてロングドライブに出掛けた際に『10万台の自転車を売りたい』という夢を語ったことがある。それからわずか12年後の1988年にはその夢を叶え、7000台ものMTBも販売したんだ。記念に私から父にMTBをプレゼントしたらとても喜んでくれて、私も嬉しかった。
故ディック・バーグ氏のメッセージ『It's been a great ride』が壁に トレック本社のエントランスには創始者ディック・バーク氏の写真と、It's been a great ride.のメッセージが。自転車を楽しまれていたのが伝わります。
実はバイクプラス創業メンバーも創業前に故ディック・バーグ氏にお会いしたことがあります。その時に氏にこんな言葉をかけられ感動したと話していました。
販売店で働く人々のこともTREKの自転車に乗っている人もみな『ファミリー』だと思っている。私たちは『トレック・ファミリー』。家族と同じように親しみを持ち大切にし、感謝している。

USAトップに聞くトレックが世界シェア№1になった理由

アメリカ本社のエントランスにある歴代自転車展示エリアの様子 エントランスには歴代の自転車がずらり。創業当初のフレームも展示!
トレックが世界ナンバーワン自転車メーカーになった一番の理由は? という問いにジョン・バーグ社長は

people ~ひと~

と、即答。加えてこのような想いを語ってくれました。
素晴らしいデザインを作るのも人であり、販売店の皆様の協力、トレックを選んでくださる人の存在、すべては人々のつながりで『今』がある。
ちなみにトレックでは他メーカーの10倍以上の人間が開発に携わっています。それも皆各分野のエキスパート達。自由な発想でゼロから創造性を発揮できる素晴らしい開発環境があります。 オフィス内のデスクも一人ひとり個性的でユニーク。私たちが見学したときは、愛車と片時も離れたくないのかデスクの横に駐輪しているスタッフも。

カーボンを超える素材を開発中なのか!?

ジョンバーグ氏とツーショット(後ろには故ディックバーグ氏の写真も)写真 ジョン・バーク社長とともに。後ろは創業者故ディック・バーグ氏。
鉄からアルミへ、アルミからカーボンへと進化してきた自転車テクノロジー、カーボンを超える新素材の研究などしているのでしょうか? ディック・バーク社長の答えは
これからの自転車にとって重要なのは、重量や素材にこだわることよりも、自転車自体がどのような働きをするのかだ。 DOMANE(ドマーネ)のように圧倒的に乗り心地が良いロードバイクだったり、マドンのように世界最速のロードバイクだったりと。それぞれの自転車の持つ機能を選択される時代だと思う。
トレックでは常に3~5年先を見据えて様々な開発に取り組んでいます。 DOMANEの誕生とジョン・バーク社長の回答からも自転車が新たな時代へ突入したと言えるでしょう。ただただ軽くすることに注力していた時代から、人のためのあらゆる機能をもたせる時代へ。スポーツバイクが自転車レースのためだけでなく、私たちのサイクルライフを安全で快適で豊かなものへと変えていく時代へと変遷していくことでしょう。

TREK永久保証 - 全てのバイクに『限定生涯保証』ができる理由

ところでトレックのフレームには、故ディック・バーク氏がまだ社長を務めていた時代から『限定生涯保証』という保証が付いてきます。これは、一度トレックに乗ってくれたのなら一生涯にわたり安全で快適なTREKバイシクルに乗って楽しいサイクルライフを送ってほしいから。もちろん品質への自信の表れでもあります。 テストラボの写真 TREKでは、開発・テストラボ・製造工場・テストフィールドが国境をまたがらず一箇所に集約されているため、製品が世にでるまでがとてもスピーディです。国境や海を渡らず地球上の一箇所で開発エンジニアの分析をもとに、すぐにプロトタイプを製作し、製品化可能かどうか、強度や耐久性が十分かどうか厳格にテストされます。 またそのテストはどのメーカーよりも、どの国の安全基準よりも厳しいトレック独自の基準。だからこそ、トレックは、ロードバイク、クロスバイク、MTBすべてに生涯保証を付帯できるのです。 アイディアが形になり、製品が確実にブラッシュアップされていく過程をリポートします。

自社工場内で自社スタッフがプロトタイプをつくるから開発が速い

プロトタイプパーツの一部を撮影 実際にアルミの塊が機械で切り出されて出てきたプロトタイプのパーツ
プロトタイプの製造には大きく3つの役割があると教わりました。
プロトタイプの役割:
  • コンピュータ上で作成したものが、実際に製品として製造可能かどうか、何度も再現できるかどうかを確認する
  • きちんとアッセンブル(組み付け)できるかどうかを確認する
  • 強度がしっかりと保たれるかどうか確認する

プロトタイプの製造は『3Dプリンタ』を使用することでさらにスピーディ

3Dプリンタで作った沢山のプロトタイプを撮影 パーツの形状により、最先端の3Dプリンタを使ってプロトタイプのパーツをつくることも。3Dプリンタの動きを見ていると、特殊なプラスチックの液体を何往復もしながら重ねていき、最終的に立体的なパーツのプロトタイプが完成します。 ハンドルのパイプはしっかりと空洞になっていたり、ブレーキのピボットはしっかりと動いたり。金属だと溶接や切削、組立をしなければならなったパーツが、待ってるだけで完成してしまうのが驚きでした。DOMANEのIso Speedの部分も3Dプリンタで作られていました。 15㎝×15㎝×15㎝程度のものでも3~4時間の時間がかかるようですが、金型を作らずして物体を形成することで確実に時間を短縮でき、開発が進んでいきます。本社機能と製造現場、テスト環境が一箇所にあるからこそ、です。

これがTREKの品質の要であるテストラボ

テストラボ全体像 トレック本社工場内のテストラボ。24時間体制でテストが続けられている。この後さらに面積を拡大しています。
こちらは、トレックの心臓部とも言える部屋『テストラボ』。16年以上ここで働くステファン氏によると
3~5年前までは不可能だと思われていたことが今は実現しているように、日々テストの技術も進歩している。
とのこと。 ここでは、BB、ステム、フォークをはじめ全てのパーツの耐久テストをプロトタイプの段階でしっかりと行います。 主に下記のような点を重点的に見ています。
テストラボのお仕事:
  • アナリシス(分析)で計算された通りに実物が製造されているかどうか。
  • 強度・剛性がどれだけあり、どれだけ力を加えたら壊れるかを見極める耐衝撃性。
  • 何度も同じ力を加えて何回目で壊れるかを見る耐消耗性。
凄いですね。

幼児車のフロントフォークも耐久試験

耐久試験の様子 子供用自転車のフロントフォークの耐久テスト。同じ衝撃を10万回~20万回与え続ける
私達が見学したときは、いい意味で期待を裏切られました。ハイエンド車体ではなくなんと子供用自転車のフロントフォークの耐久テストを行っていました(笑 力を加える回数なんと10万回、場合によっては20万回、時間にして1日半。3歳で買った自転車のフロントフォークが92歳になっても壊れない計算らしいです。 不必要な数であっても、最悪の事態を想定して何度もチェックすることで、トレック品質は保たれています。このテストの厳しさは、各国の協会の安全基準を超えるトレックのスタンダード。自転車のお膝元ヨーロッパではトレックのテストラボが高く評価されています。

OCLVカーボンフレームが出来上がるまで

次のページではいよいよ『OCLVカーボンフレームが出来上がるまで』を写真付きでご紹介します。業界をリードし続けるTREKの素晴らしいカーボン製品が作り出される現場、非常に興味深い内容です! TREKの販売店でも訪れた経験があるひとは少ないTREK OCLVカーボンフレーム製造工場見学レポート(page2/3)。 このページではOCLVカーボンフレームの製造工程、カーボンシート(プリプレグ)から、フレーム成型、ペイントまでトレックのカーボンロードバイクができるまでの一連の過程をレポートします。 本社工場では、世界各国からオーダーされたプロジェクトワンのフレームを製作しています。ひとつひとつの工程は人の手で行われていました。正にhandbuilt in the United States.

TREK OCLVカーボンフレームができるまで

カーボンプリプレグをカッティング

カットされたカーボンプリプレグをフレームのどの部位に使っているかわかるように一面に並べた写真 カーボンフレームは、繊維の太さや密度など何種類もあるカーボンシートを適切な方向で適切な枚数重ねて隙間が出来ない様に熱と圧力を加え成形していきます。 カーボンシート(プリプレグ)をカットする前に、最適なカーボンシートを最適な方向に重ねていかなければなりません。その為に、作業台正面にある電光板からはエンジニアからの指示が表示され、作業を行う女性スタッフはその指示を見ながら、順番通りに指定されたカーボンシートを指定された向きに並べていきます。 電光板の指示の他にも、天井から作業台に向かって垂直にレーザービームがあたるようになっていて、レーザービームの示す場所にカーボンシートを置いて重ねていきます。ただ重ねるのではなく、種類・向き・積層数に気を付けて重ねていくようです。 重ねたシートはプログラミングされた機械が素早くカットしていき、異なるモデル、異なるサイズが混ざらない様に、単品ごとに仕分けされバーコードで管理されていきます。

カットされたカーボンシートを金型に敷き詰め加工

OCLVカーボン製造行程『金型にカーボンを敷き詰めている』様子 カットされたカーボンプリプレグは、エンジニアの設計通りの場所に繊維の向きや重ね順で金型に敷き詰められ、風船を中に入れた後金型を閉じ、加熱圧縮されます。

これぞOCLV製法

この段階でカーボンの積層内に空気が残ってしまうと耐久性が極めて低いフレームになってしまいます。TREKでは、フレームを部位ごとに分けて比較的小さなピース(パイプ)に分けて加熱圧縮するため、低品質のフレームができにくいという特徴があります。これがトレック独自の技術なのです。 OCLVカーボン製造過程『熱と圧力を加えて出来上がったフレームの一部』の写真トレックが世界に誇るこの技術が『OCLV製法』です。空隙率はなんと1%以下。ちなみに米国航空事業産業の基準は2%。それよりもさらに高い基準をトレックがクリアしているわけは、カーボンの技術のエキスパートが開発に携わっているからなんです。
OCLV製法は凄い! OCLV製法とは違い、フレームをワンピースモノコックで製造する場合は、空隙率がどうしても高くなってしまいます。そのような製造方法をとる場合、品質を担保するために、積層をあらかじめ厚くしたり(重量増)、空隙ができやすい部位にあらかじめパテを入れ込んだり(重量増・低性能)する必要があるのです。

出来上がったフレームの各部位を接合

出来上がったフレーム構成部分を接着する工程の様子 エポキシという特殊な接着剤を使用してフレームの各部を接着していきます。この接着剤は、ラグを接合する時に使うものとカーボンシートを接合するのに使うものとで使い分けるようです。接合面の精度が高く紙1枚だって入らない程隙間がありません。
ステップジョイントと呼ばれる特殊な接合部分のアップ ステップジョイント
接着剤を塗ったらアライメントが崩れないように素早く正確にはめていきます。ステップジョイントで繋げる場所も強度面で影響のないところを計算されて設計されています。
ステップジョイントが秀逸 カーボンパイプを接合した時に接合部分のみ肉厚が分厚くなってしまうことが長年の設計上の課題だったのですが、こうして段々になっているモノ同士を繋げることで、接合部分の肉厚が他の部分と変わらないだけでなく、接合面積も結果として増えるので強度が増すというメリットも同時に実現した画期的な方法です。実はこのステップジョイントと呼ばれる接合方法は宇宙航空産業からも注目されたほどのTREK独自の優れた技術なんです。

OCLV製法産みの親は航空宇宙産業の元エンジニア

ジム・コールグローブ氏がOCLVカーボンを説明している様子 カーボンフレームの開発に古くから力を入れているTREK社で、OCLVカーボンと呼ばれる性能も品質も群を抜いたカーボンフレームの製造方法を産み出した中心人物がこのジム・コールグローブ氏。実はその昔カーボンの専門家として航空宇宙産業の分野で戦闘機などの開発にも携わっていた経験があります。 工場を案内してくれたジム・コールグローブ氏に以前他のスタッフがお会いした時には次のようなことも話していました。

どんなに粗悪なカーボン製品でも見た目は高級高品質に見えるから怖い

カーボン製品の良し悪しは製品の外見からは判断しにくい。これはユーザーにとってはとても怖いことだ。カーボン製品は見た目はみんな高級で高品質に見える。品質の良し悪しを判断するにはカーボンの積層を確認しなければならず、それはその製品をカットしなければ確認できないことを意味する。だから購入を考えている製品がどんな工場でどんな作り方で生産されているかを知ることは、購入の良い手助けになる。

カーボン製治具に載せアライメントを正しながら接着

カーボン製治具に載せアライメントを正しながら接着を待つ様子 大切なのは、アライメントを崩さないこと。接合した後素早く固定台にセットし、ゆがみやズレがないかアライメントをチェック。どの台を使用して固定されたのか印をつけて加熱されます。 加熱する前に、接合時に使用した余分なエポキシを拭き取ります。この段階で拭き取っておかないと、接合面に硬い塊ができてしましい、ペイント前の研磨作業に時間がかかってしまうそうです。

ペイント前の最終工程 1台2時間かけて行う研磨作業

OCLVカーボンフレームを研磨している様子 最後の工程である塗装に入る前に、フレームの研磨を行います。4~5段階のやすりを使い1台磨き上げるのに要する時間は2時間。しかも1台1台全て手作業で行われていました。プロジェクトワンで作るロードバイクには沢山の人の手がかかっていることを改めて実感しました。 プロジェクトワンのように好みのペイントを施すためには、様々な塗料を使うためこの下地作りが非常に重要なポイントになります。BB付近等細かい部分は別室でさらに丁寧に磨かれていきます。

UVコーティングを施して丁寧にペイント

OCLVカーボンフレームにカスタムペイントを施している様子 ペイントの前に重要な工程があります。それが、UVカットコーティング処理。UV(紫外線)は、通常カーボンフレームを製造・加工する際にカーボンに浸透させる樹脂(レジンなど)を傷め自然劣化を誘発させてしまいます。なのでコーティング(保護)は必須なのです。 TREKはレジンの使用を必要最小限に抑え、OCLV製法でカーボンを最適に管理・製造。さらにUVコーティング処理を行うことで、他を圧倒的に凌ぐ耐久性があるフレームが完成します。 こちらはプロジェクトワンというカスタムオーダープログラムのペイント風景。一台一台エアブラシで丁寧に塗装されているなんてたまりません。

TREKロゴやモデル名などのデカール貼り

工場内のロゴマークなどを貼るエリアの様子 1台1台丁寧にペイントされた後、デカールが貼られていきます。目に止まったのは女性が多いエリアだということ。工場を案内してくれたOCLVの産みの親ジム・コールグローブ氏曰く、女性の方が細やかな作業に向いているからとのことです。これでフレームは完成です。この後にパーツ類がアッセンブルされていきます。 こちらはプロジェクトワンと呼ばれているカスタムオーダープログラムのPVです。工場でフレームが出来上がるまでをカッコよくまとめてあります。

TREKバイクの開発の裏ではなく表舞台に日本人!

次のページではTREKのエアロとなの付く製品のほとんどに携わっている日本人エンジニアのお話をご紹介します! TREKの販売店でも訪れた経験があるひとは少ないTREK OCLVカーボンフレーム製造工場見学レポート(page3/3)。 ジョン・バーク社長の言う通り、トレックのバイクが生まれてお客様の手にわたるまでに、たくさんの人が関わっています。本社工場では、開発・デザイン・テスト・フレームの製作まですべてが行われ、自転車メーカーの中でも群を抜く数のプロフェッショナルが集まり、業界をリードし続けています。今回、新型MADONE開発担当エンジニアにお会いし、お話を聞くことができました。

新型マドンの誕生には日本人女性が設計に参画

エアロの開発者である日本人女性によるプレゼンの様子MADONE開発にこのアナリシス『解析』が欠かせません。優れたテクノロジーを持ったり高価な素材を使ったりしている自転車が、コストパフォーマンス高く提供されるようになってきた今日は、コンピューター解析の技術の進歩と研究者による地道な解析があってこそ。 アナリシスエンジニアの鈴木未央さんもその一人。 鈴木未央さんは主に空気力学・流体力学の解析を担当。聴きなれない難しい言葉ですが、簡単に言うと空気抵抗や空気の流れの解析です。コンピューター上で空気の流れや抵抗をシュミレーションします。それをもとに最終的に特別な施設で実車のバイクを使って、コンピューター上の解析どおりかどうか解析をさらに進めていきます。 トレックのバイクデザインはCDF(流体力学)をもとに造られています。見た目の美しさだけに拘るのではなく、流体力学的に見て効果的であるかどうか、性能のためのデザインです。この日は、新型MADONEに乗って走った時の気流を解析した画像を使って、どこに空気抵抗が生まれているかを説明してくださいました。

入社から1年半でビッグプロジェクトを担うまで活躍している鈴木未央さんに迫る

エアロの開発に携わっている日本人女性の紹介 そもそも、何故アナリシスエンジニアに? バークリー卒業後シリコンバレーでビジネスマンとして働いていたのですが、大学で学んだ理工系の研究の方がしたいと思い、理工系では全米で2位に成績をもつユニバーシティオブウィスコンシンマディソン校に入学、空気力学の分析等を学びました。 ビジネスマンとして競争社会の中にいるのは疲れてしまって好きなことをしたいと思ったんです。 トレックに入社したきっかけは? 大学院卒業後進路が決まっていなかったけれど、あまり気にせずのんびり探そうと思っていたとき、トレックが水曜日に行っているファクトリーツアーに参加しました。 大学で研究していたことそのものだったのと、ツアーのアテンダントしている人も感じがよく、一瞬でぜひ働きたいと思った。どうしたらアナリシスエンジニアになれるのか聞いて、とりあえずインターンから初めてみることになりました。 トレックに入社して1年半、新型マドンの空気力学のアナリシスを担当させてもらって楽しかったです。 トレックで働いていてよかったことは? 人がいいところ。ウィスコンシンの人達は心が広く温厚な人が多いんです。シリコンバレーで働いていたころは競争ばかりだったけど、いまは気持ちよく働けています。 アナリシスエンジニアになるという目標をかなえた今、今後の目標は? トレックは常に3~5年先のことを考えています。これからの目標はトレックと一緒に世界で一番有名なエンジニアになることです。 そんな未央さんの愛車は'10年のマドン。夏の通勤は片道40kmの距離を移動してくるとか。毎日でないにしても凄い! 明るい雰囲気の未央さん、トライアスロンにも挑戦したいと語ってくれました。バイタリティ溢れる彼女のオーラに、同じ年の女性として元気と勇気をもらいました。

空気力学の他にもフレームアライメントや剛性テストもコンピューターテストがベースに

コンピューターによるシミュレーションをプレゼンする様子アナリシスチームのJay Maggasさんは、コンピューターを使って実際のライドコンデイションを再現し、OCLVの積層の厚さやカーボン繊維の方向を解析。どこにどれだけの力がかかっていて、弱い部分にはどれだけの厚さ調整が必要なのかをシミュレーションしていきます。 肉眼では確認できない程のフレームの歪み等も解析し、どこにどれだけ補強が必要なのか、フレームサイズによっても違う歪みの量をふまえて各チューブの長さや角度、大きさ等を決めていきます。

ハイスピードカメラが捉える映像で新事実が分かる

ハイスピードカメラが開発力を高めるプレゼンの様子 アナリシスチーム3人目はPaul Harderさん。彼が紹介してくれたのはハイスピードカメラという、超スローモーションで再生できるビデオカメラを使った解析。 ビデオをセットして衝撃を与え続けることで、どのタイミングでどのようにして壊れていくのかを解析したり、コンピューターでシミュレーションしたものが、現実にその通りになっているか映像から解析をします。 例えば、パンクさせたタイヤを転がし続けてどのようにアルミホイールのリムが壊れるか、時には、どのような動き方をしてチェーンがフロントディレイラから外れるのか、時には、ヤシの実をいとも簡単に割ってしまうほどの衝撃をカーボンアーマーに与えた時にどのような変化が起きるか、1秒以下の単位で再生し解析。 また、新型マドンのKVF実験でも空気の流れをハイスピードカメラで撮影してみると、右から2番目のKVFチューブに仮想尾翼ができていて、気流が右端の尾翼型と同じように流れているのがわかります。 こうしたアナリシスチームの解析の結果が、マドンのフレーム形状に反映され、世界が注目する新たなバイクが完成したのです。

今回のトレックアメリカ本社工場の見学で見えてきたことは

綺麗に自転車やウェアが飾られているトレック本社ラウンジの様子 トレックがどこよりも厳しいテスト基準で安全性を保証していること、常に時代の最先端を行くテクノロジーの開発に貪欲であること、トレックの生涯保障はユーザーのサイクルライフのパートナーとして寄りそう姿勢が形となったものだと感じました。 それから、トレックのスタッフは世界中の誰よりも自転車の楽しみ方を知っていて、誰よりも日常に自転車を取り入れて楽しんでいる。一面銀世界でも楽しそうにランチライドに向かう姿や、歴代の自転車が展示されている食堂での談話風景もとっても楽しそう。 乗っているからこそ製品にフィードバックされ、圧倒的に乗りやすい自転車だったり、唯一無二の画期的なテクノロジーが生み出されているのでしょう。

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